ワールド・レポート
2011/03/05
MoMA PS1「Laurel Nakadate: Only the Lonely」
見られる涙
2009年7月にこの欄で筆者が紹介した、ローレル・ナカダテ(1975年アメリカ・テキサス州生まれ)の個展「Laurel Nakadate: Only the Lonely」がMoMA PS1で始まった。ビデオ、写真、映画の3つのメディアによる彼女の過去10年の作品をまとめて展示、さらに新作も紹介した大規模な展覧会である。
Laurel Nakadate《From the series 365 Days: A Catalogue of Tears, 2011 January 16, 2010》
Courtesy Leslie Tonkonow Artworks + Projects, New York
今回の個展で改めて強く認識したことは、ナカダテと、彼女が好んで起用するアマチュアの出演者(被写体)との間の微妙な関係が、作品に独特のごつごつしたぎこちなさを与えている点である。選ばれる男性はいつも決まってさえない風情の中年ばかり。それに対して、女性はナカダテ自身も含めて強いと同時に無防備でもある若くて美しい存在である。カメラの前で向き合う両者の間に生じる居心地の悪さが、不穏な緊張感や性的な抑圧を見えかくれさせるのだ。
2011-03-05 at 01:46 午後 in ワールド・レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
2010/11/24
Japan Fashion Now
NYから塩崎浩子さんのレポートです。
FIT(Fashion Institute of Technology)併設の美術館で開催されている「Japan Fashion Now」は日本の現代ファッションをテーマにした展覧会である。
展示は低い舞台の上に黒ずくめのファッションをまとったマネキンが林立する部屋から始まる。1980年代に登場した川久保玲の「コム・デ・ギャルソン」や山本耀司の「ヨウジヤマモト」(写真中)。ぼろルックとも評された古着風のだらしないスタイル、黒を中心とした暗い色は洋服の既成概念をくつがえし、世界中が驚き、憧れた。若かった私は気後れして店に入れなかった記憶がある。
Gothic/Punk duo Hangry and Angry (singers Hitomi Yoshizawa and Rika Ishikawa). The singers' aliases were inspired by the cartoon cats Hangry and Angry created by illustrator GASHICON for h. NAOTO. © HANGRY & ANGRY 2009 Project. Photograph courtesy of S-inc.
2010-11-24 at 09:21 午後 in ワールド・レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
2010/09/20
Heat Waves in a Swamp: The Paintings of Charles Burchfield
観察の人
NYから塩崎浩子さんのレポートです。
ホイットニー美術館で開催されている「Heat Waves in a Swamp: The Paintings of Charles Burchfield」は、アーティスト、ロバート・ゴーバーの企画による、チャールズ・バ−チフィ−ルド(Charles Burchfield)の個展である。
《The Night Wind》 1918. Watercolor, gouache, and pencil on paper, 211⁄2 x 217⁄8 in. (54.4 x 55.5 cm). The Museum of Modern Art, New York. Gift of A. Conger Goodyear, 1960
バ−チフィ−ルドのドローイングを持っていたゴーバーの自宅にアメリカのHammer Museumのディレクターが夕食に訪れたことから始まったというこの企画、アウトサイダーアートではないものの、あまり知られることのなかったバ−チフィ−ルドの、水彩作品を中心にドローイング、油彩、日記、スケッチ、スクラップや手紙など100点を超す作品や資料が展示されている。かのMoMAで1930年に個展が開かれているにもかかわらず(MoMAで初めての一人のアーティストの展覧会)、彼の仕事はこれまで包括的に評価、紹介されてはいなかった。ゴーバーは展覧会カタログに丁寧な解説を寄稿しており、彼の企画であることが、今回より多くの観客を集めているのは間違いないだろう。
2010-09-20 at 12:53 午前 in ワールド・レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
2010/07/31
Jakub Julian Ziolkowski「Timothy Galoty & The Dead Brains」
死んじゃった脳ミソ
Jakub Julian Ziolkowski 《Timothy Galoty & The Dead Brains》2010
2010-07-31 at 01:17 午後 in ワールド・レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
2010/06/24
Bureau「Solid-State」
ありふれた、不変の、固いものニュー・ミュージアムの近く、ギャラリーが増え続けているロウアー・イースト・サイド地区。大手ギャラリーで経験を積んだ若いギャラリストが独立し(女性も多い)、小さいながらも自分のスペースを構えている。チェルシーにはない初々しさや、気合いや、ダウンタウンらしいラフな感じが面白い。最近はさらにその地域が南へ広がり、“ロウアー”・ロウアー・イースト・サイドに新しいスペースが増えている。今回はその一つ、チャイナタウンの東端に位置するBureauを紹介したい。
Alex Hubbard《Announcement》2007 Digital video 2:11 min.
2010-06-24 at 01:20 午前 in ワールド・レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
2010/05/09
MoMA「Marina Abramovic´: The Artist Is Present」
アブラモヴィッチはここにいる
自らの肉体を使って表現するボディ・アート、パフォーマンス・アートの先駆者として60年代末から活動しているマリナ・アブラモヴィッチ(1946年旧ユーゴスラビア生まれ)の大規模な回顧展「The Artist Is Present」がニューヨーク近代美術館で開かれている。
Installation view of Marina Abramovic´’s performance The Artist Is Present at The Museum of Modern Art, 2010. Photo by Scott Rudd. © 2010 Marina Abramovic´. Courtesy the artist and Sean Kelly Gallery/Artists Rights Society (ARS), New York
彼女のパフォーマンスは時に長時間にわたり、自虐的ともいえる行為によってなまなましい痛みや苦しみ、それを昇華した時の快楽などを観客にダイレクトに伝え感じさせる。それだけにその作品は挑戦といってもいいほどの忍耐力や体力を必要とする。今回の展覧会で発表した新作は、アブラモヴィッチがその肉体と精神を賭けて「そこにい続ける」作品である。3月14日から5月31日までの展覧会期中、1日も休まず開館から閉館まで計700時間以上、テーブルをはさんで不特定多数の観客と二人きりで座ったまま向かい合う。これまでの彼女の作品で最も長時間のパフォーマンスである。
2010-05-09 at 04:42 午後 in ワールド・レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
2010/03/28
The Drawing Center「Iannis Xenakis: Composer, Architect, Visionary」
イアニス・クセナキス展——ドローイングとしての音楽
NYから塩崎浩子さんのレポートです。
音楽を作曲することと建物を建てることは、似ているのだろうか?さまざまなパーツを組み合わせ、ひとつの大きな構造を作り出す。建築家を経て、現代音楽の作曲家として世界的に活躍したイアニス・クセナキス(Iannis Xenakis、1922–2001)の展覧会が、ソーホーのドローイング・センターで開催されている。彼のビジュアルワークを紹介する北米で初めての展覧会で、1953年から1984年に作られた、およそ100点のスケッチ、直筆の楽譜、建築プランのドローイング、レンダリング図面などが展示されている。
Ink on paper 9 x 9 inches Iannis Xenakis Archives, Bibliothèque nationale de France, Paris
2010-03-28 at 03:40 午後 in ワールド・レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
2010/02/06
スカルプチャーセンター「Leopards in the Temple」展
彫刻かと思ったら
MoMA のガブリエル・オロツコの回顧展を見てがっかりしたのは、作品そのものに対してではなく、展示場所との関係だった。ヨーグルトのふたを壁に貼付けたあの有名な作品は、そこにだだっ広い空間があるからこそ生きるのであって、人がひっきりなしにすれ違う通路のような場所では神通力がなくなってしまう。空間の代わりに台座や狭い壁面を与えられ、作品は物体と化していた。そんなことを思い出したのは、クイーンズのP.S.1近くにあるスカルプチャーセンターで開催中の「Leopards in the Temple」の展示が空間と実にうまく調和していたからだ。
João Maria Gusmão and Pedro Paiva “Paramagnetism”, 2004
16mm film, color, no sound, 1’43”.
Courtesy: Galeria Graçabrandão, Lisboa
スカルプチャーセンターはアーティストによって1928年に設立された非営利のアートスペース。2001年、トロリー修理工場だった建物を買い取ってマンハッタンから移転し、アーティスト/デザイナーのMaya Linが建物のデザインを担当した。レンガの壁でできた巨大な建物は工場の雰囲気がそのまま残る。1階は高い天井を生かした仕切りのない空間、地下の展示室は少しかび臭くて薄暗く、狭い通路を歩いているとアートスペースとは思えない不気味ささえ覚える。
2010-02-06 at 07:53 午後 in ワールド・レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
2010/01/05
スチュア−ト・シェアマン「Nothing Up My Sleeve」展
奇術的な存在
「マジシャン」と聞けば、おなじみのあのポール・モーリアの曲にのって登場するマジシャンの姿が思い浮かぶ。ハトやウサギが飛び出す黒いシルクハットをかぶり、シャツのポケットには鮮やかな色のスカーフが入っている。そでの中やジャケットのどこかに何かを隠しているに違いないのに、それを悟らせないポーカーフェイスや巧みな手さばき、そして目の前で繰り広げられる不思議なトリックに簡単にだまされてしまう。
《Stuart Sherman's Eleventh Spectacle (The Erotic)》
Photo Copyright ©1978 Babette Mangolte All Rights of Reproduction Reserved
スチュア−ト・シェアマン(Stuart Sherman、1945-2001)にそんなマジシャンの雰囲気を感じた。マンハッタンのロウアー・イースト・サイドにある非営利のオルタナティヴ・アートスペースPARTICIPANT INCで開催された「Stuart Sherman: Nothing Up My Sleeve」は、彼の奇術めいたパフォーマンスを映像で紹介した展覧会である。
2010-01-05 at 11:03 午前 in ワールド・レポート | Permalink | コメント (0) | トラックバック(0)
2009/11/22
マイケル・ウィリアムズ「Uncle Big」展
どこか大阪風
NYから塩崎浩子さんのレポートです。
展覧会案内のハガキに印刷された、個展のタイトルでもある「Uncle Big」という作品は、キャンバスらしき平面を突き破ってこちら側に刺さる大きな絵筆が一本、画面いっぱいに描かれている。この筆が「ビッグおじさん」? 1978年生まれの若手ぺインター、マイケル・ウィリアムズ(Michael Williams)のカナダ(ギャラリー名)での2度目の個展「Uncle Big」では、奇天烈な、擬人化された世界が繰り広げられている。
Michael Williams《Surf 'n Turf》2009 Oil on canvas 40 x 60 in Courtesy of CANADA
2009-11-22 at 04:09 午後 in ワールド・レポート | Permalink | コメント (1) | トラックバック(0)