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2010/01/05
スチュア−ト・シェアマン「Nothing Up My Sleeve」展
奇術的な存在
「マジシャン」と聞けば、おなじみのあのポール・モーリアの曲にのって登場するマジシャンの姿が思い浮かぶ。ハトやウサギが飛び出す黒いシルクハットをかぶり、シャツのポケットには鮮やかな色のスカーフが入っている。そでの中やジャケットのどこかに何かを隠しているに違いないのに、それを悟らせないポーカーフェイスや巧みな手さばき、そして目の前で繰り広げられる不思議なトリックに簡単にだまされてしまう。
《Stuart Sherman's Eleventh Spectacle (The Erotic)》
Photo Copyright ©1978 Babette Mangolte All Rights of Reproduction Reserved
スチュア−ト・シェアマン(Stuart Sherman、1945-2001)にそんなマジシャンの雰囲気を感じた。マンハッタンのロウアー・イースト・サイドにある非営利のオルタナティヴ・アートスペースPARTICIPANT INCで開催された「Stuart Sherman: Nothing Up My Sleeve」は、彼の奇術めいたパフォーマンスを映像で紹介した展覧会である。
シェアマンは、リチャード・フォアマンやチャールズ・ルドラム劇団の初期メンバーで、1960年代後半から70年代前半にかけて注目を集めるようになったアメリカの前衛的なパフォーマ−である。彼自身が「spectacles(見世物)」と呼んだそのパフォーマンスのほとんどは、スペクタクルという言葉のイメージとは裏腹に、街角や舞台に置かれた小さな折り畳みテーブルの上で繰り広げられた。
《Stuart Sherman's Eleventh Spectacle (The Erotic)》
Photo Copyright ©1978 Babette Mangolte All Rights of Reproduction Reserved
パフォーマンスの時間は2、3分、長くてもせいぜい数分程度だろうか。おもちゃ、電球、カード、テープ、新聞紙、鉛筆、チェスの駒、プラスチックのコップなどありふれた日常のものを使って非日常的な動き、たとえば別の場所へ移すーもとに戻す、頭にかぶる−脱ぐ、テープを貼るーはがす、組み立てるー壊すといった動作をすばやく展開させる。カセットテープに録音した効果音を使うぐらいで、彼はほとんど何もしゃべらず無表情のままだ。テーブルマジックで「タネも仕掛けもございません〜」と観客の前で小道具を見せている時のような神経の行き届いた手の動き。そこにはもちろんタネも仕掛けも、さらに意味も、目的もないように見える。思わせぶりだが何もなく、それは唐突に終わる。
この展覧会のキュレーターでアーティストのJonathan Bergerは、さらにシェアマンの作品からインスパイアされた古今アーティスト18組の作品も展示し、摩訶不思議な空間を作り上げている。「脱出王」として有名な奇術師ハリー・フーディーニの木箱で水中に沈められたり、拘束衣で逆さ吊りになった状態からの脱出写真、60年代後半のイタリアで台頭したラディカルな建築/デザイン集団ス−パ−スタジオのおよそ実現不可能な「建てられない」都市計画、存在そのものが神秘的ジェームス・リー・バイヤースの抜け殻になった金色のスーツが台に置かれているさまは、まるでマジックで彼の肉体だけが消えてしまったかのようだ。
疑ったことのない真実や、今現実だと思っているこの世界の現実を、彼らは身近でありふれた道具を使い、マジシャン的な方法で鮮やかに疑ってみせる。それは一見うさんくさかったり、怪しげなのに、マジックのタネを知りたくなるのと同じように、目に見えない神秘的なものへの興味をかきたてずにはいられない。既成の価値や概念のありようを問うこうしたパフォーマンスが今改めて要請、見直されているように思う。
この展覧会と並行して、ニューヨーク大学の80WSEギャラリーでは「Beginningless Thought/Endless Seeing: The Works of Stuart Sherman」という展覧会が開かれた。こちらは前述のパフォーマンス映像のほか、舞台、映画、ドローイング、コラージュ、詩、彫刻など、シェアマンの幅広い活動を紹介した。
Words: 塩崎浩子
PARTICIPANT INC「Stuart Sherman: Nothing Up My Sleeve」は12月20日で終了。
2010-01-05 at 11:03 午前 in ワールド・レポート | Permalink
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