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2010/02/06
スカルプチャーセンター「Leopards in the Temple」展
彫刻かと思ったら
MoMA のガブリエル・オロツコの回顧展を見てがっかりしたのは、作品そのものに対してではなく、展示場所との関係だった。ヨーグルトのふたを壁に貼付けたあの有名な作品は、そこにだだっ広い空間があるからこそ生きるのであって、人がひっきりなしにすれ違う通路のような場所では神通力がなくなってしまう。空間の代わりに台座や狭い壁面を与えられ、作品は物体と化していた。そんなことを思い出したのは、クイーンズのP.S.1近くにあるスカルプチャーセンターで開催中の「Leopards in the Temple」の展示が空間と実にうまく調和していたからだ。
João Maria Gusmão and Pedro Paiva “Paramagnetism”, 2004
16mm film, color, no sound, 1’43”.
Courtesy: Galeria Graçabrandão, Lisboa
スカルプチャーセンターはアーティストによって1928年に設立された非営利のアートスペース。2001年、トロリー修理工場だった建物を買い取ってマンハッタンから移転し、アーティスト/デザイナーのMaya Linが建物のデザインを担当した。レンガの壁でできた巨大な建物は工場の雰囲気がそのまま残る。1階は高い天井を生かした仕切りのない空間、地下の展示室は少しかび臭くて薄暗く、狭い通路を歩いているとアートスペースとは思えない不気味ささえ覚える。
参加アーティスト13組は1人を除く全員が70〜80年代生まれ。2009年度ターナー賞最終候補の一人Lucy Skaerや2009年ベネチア・ビエンナーレ・ポルトガル館代表のJoão Maria Gusmão and Pedro Paivaも参加している。ヨーロッパを拠点に活動し、今回がNY初の展覧会となるアーティストも多い。
Exhibition:Leopards in the Temple January 10-March 30, 2010 SculptureCenter
All images:Image c. 2010 SculptureCenter and the artists Photo: Jason Mandella
Installation View
「Leopards in the Temple」というタイトルはフランツ・カフカの物語から取られたもので、この展覧会はものごとの変容や変質、矛盾や逆説などをテーマにしている。定められた形、意味や定義・・・単純に見えるものでもそこには思いも寄らない別の世界や見え方があるのだ。
作品に共通する特徴をいくつか挙げるなら、まず立体や彫刻における「マテリアルの変容」———ありふれた素材を使いながらも作品はまるで違う様相を見せる。カール・アンドレのフロア・スカルプチャーのように見えるKitty Krausの作品が実はグレーのスーツの生地を切って床に置いたものだったり、Latifa Echakhchの作品は色とりどりの大量の壊れたガラスの破片を美しい彫刻へと昇華させている。
平面作品においてもそのイメージは変化、分断、増幅される。アクリル絵の具に加えコンクリートや布、ガラス、金属、染料などの異素材を融合したPatrick Hill、格子縞の布とその布を薄いミラーフィルムやキャンバスに転写したものとを同時に提示したLucas Knipscherの作品は洗濯物のようにだらりと棒にかけられている。
All images:Image c. 2010 SculptureCenter and the artists Photo: Jason Mandella
Foreground:Nina Canell Flat Earth, 2009 Stepping stone, neon, cable, 1000V Dimensions variableCourtesy of the artist and Konrad Fischer Galerie
Background from left to right:Lothar Baumgarten Haida Metamorphosis, 1969 (exhibition print, 2009)C-Print, 25.5” x 29.5”
Courtesy of the artist and Marian Goodman Gallery
Kitty Kraus Untitled, 2010 Suit fabric 18” x 29” / 46” x 13” 28” x 29” / 45” x 13”
Courtesy of the artist and Galerie Neu
Patrick Hill Unstable Composition #4, 2007 Glass, concrete, steel, canvas, dye 45” x 21” x 16”
Courtesy of the artist and Bortolami Gallery
Patrick Hill Abstract Hot I, 2009 Acrylic paint, dye, ink, concrete, linen, wood, staples 22” x 17”
Courtesy of the artist and Bortolami Gallery
中でも、うす暗い地下室で映像作品を見せたJoão Maria Gusmão and Pedro Paiva(写真上)が興味深かった。ぶら下げた石が重力に逆らったり、均衡を保つシーソーが1匹のハエでバランスを崩したり、蛇のように動き回るひもを男が真剣に刀で退治しようとしたり、摩訶不思議な超常現象や超自然的な世界を短いサイレント映像で見せている。
日常のものの見方を少しだけひねって見せたこの展覧会では建物自体の魅力も充分に味わえる。彫刻の展示を長年行ってきただけあり、映画のセットのような特異な空間をうまく使ったキュレーションである。
「Leopards in the Temple」は3月30日まで開催
Words: 塩崎浩子
2010-02-06 at 07:53 午後 in ワールド・レポート | Permalink
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