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1999/10/29
Vol.15 きむらとしろうじんじん(Kimuratoshirojinjin)
「野点(のだて)」とは、野外で茶をたてることをいう。茶の湯の手前として、ひろく親しまれている。じんじんの野点は、茶道のそれとは少し趣向が違う。用意された素焼きの器に、釉薬で絵付けをして、その場で焼き、自分の作った焼きたてのお茶碗で、お茶を楽しむことのできる移動カフェ。「旅まわりのお茶会です」と紹介文に書かれている。
なぜか、初めて会った人とも友だちになれてしまい。心地よく過ごせる場所。これってパフォーマンス?それとも参加型作品?どちらとも言えるような気もする。坊主頭に口髭をたくわえ、ドラッグクーン・メイクにタイトでゴージャスなドレスで、立ち寄ってくれた人たちと話し込んでいる。話しながらも、身のこなしはしなやかに、窯に絵付けの終わった器をつめたり、火の加減を確認したり。長身なのに、さらにヒールを格好よくはいている。老若男女を問わず、彼の魅力にひきこまれる。
とにかくライヴで生身の人間がかかわり合って、彼にしかつくれない和やかな空間がつくられる。なおかつ自分で絵付けをしたお茶碗まで持って帰れてしまう。みんながニコニコしながら機嫌よくしていられるって、何だかとてもステキだ。
●この「野点」をやりはじめたきっかけをきかせてください。
■OMNI BUSという展覧会を前に、友人とおしゃべりをしていたときに、一緒に考え出したものです。OMNI BUSはエイズ・ポスター・プロジェクトというNGOが95年の2月に行なった催しです。そのNGOのメンバーとして、セックスやコミュニケーション、そしてその表現について問いかけよう、という場づくりのようなことをしていたのですが。個人としても何かできないかということを考えていました。そんなとき、ピンッときたんです。いまだかつてない「ピンッ」てやつでした。ちょうど、その頃にリヤカーに載るサイズのプロパンガスを使って焚ける窯(ドリームキルン)を見つけることができて。そのときは、京都の市内をリヤカーを引いて、適当な場所をみつけては、焼き上がったばかりの器で立ち寄ってくれた人とお茶を飲んだり、おしゃべりをしたりしました。現在のような、絵付けをお客さんにもやってもらうという形式には、まだはっきりとなっていませんでしたが。カフェ文化というか、非営利のカフェを運営することを手伝ったりしていましたので、そういうものの楽しさは、それまでにもいろいろ経験していました。その影響というのは多分にあると思います。
●もともと大学での専攻も陶芸ですよね。
■陶器というものに対するこだわりもあります。素材として好きですから。それに、日常食器ではない、ちょっといい器で、食べたり飲んだりすることも好きです。陶器をつくることって、少し語弊があるかとは思うのですが、鈍臭いものに見えた時期もあったんです。でも、いい器が出来て、それで美味しいお茶を飲んで、幸せな気分に人がなる瞬間を共有できる素晴らしさというのでしょうか。
●絵付けに参加できるというのは、はじめからやっていたわけではないということですが。
■はじめは、自分でつくった茶碗を焼くところを披露するというやり方だったんです。何度か街に出て、回数を重ねていくうちに、変えていったのですが。本格的に動きだしたのは、昨秋のパリでの野点のときですね。子どものアトリエで教えたりしていて、そのときの影響というのが大きいかもしれません。子どもたちは、こちらの忠告を無視して、陶芸のことをかじったことのある人間なら、けっしてやらないような、やってはいけないと言われているようなことをやってしまうんです。でも、焼き上がったものは素晴らしいものだったりします。わあ、こんなのが出来た!というプロセスの楽しさや喜びを共有することが出来るんです。はじめからではないということで言うと、ドラッグクイーン・メイクもそうです。
●これらの一連の行為すべてが作品なわけですよね?
■アートの範疇を、どこからどこが自分の表現で、とかはっきり答えられないけれど。リアカーのデザインひとつにしても、かなりのこだわりがあるんですよ。必要ないろんなものを積めて、なおかつ仕事がしやすくて。みなさんに体験してもらっているのは、いわゆる「楽焼き」と呼ばれるものです。この楽焼きを、いかにアトラクティブに、ポータブルに街中にくりだせるものに出来るか、どうか、それがうまくいったかどうかは自分にとっても快感です。リアカーには愛着があるし、自分そのもの、だとも思っています。だから、今でも時間があると「野点」のことを考えてしまいます。お客さんに楽しんでもらうには、どうすればいいか、そればかり考えてしまう。
●美意識っていうんでしょうか。限りなき追究をしてしまうのですね。
■スーパーマン願望というと大げさかもしれないけど、常に現場にいて、自分の頭のなかにあるものの実現を望んでいます。リアカーなりの手順で「野点」を洗練させていくことは、チャーミングなはずだと信じています。いろんな段取りとかも全部含めて、完璧を目指しているんですよ(笑)。ミリ単位のこだわりでやっていることを僕の妙なはまりこみ具合に、参加する人も楽しんでくれる。
●これからどんな展開になっていくのでしょう?
■通常営業というのでしょうか。アーティストとしてモノを売るのではなくて、これがオリジナルな職業としてなりたっていくことが出来るといいな、と考えています。作品として考えることと、通常営業という2つの間には、自分のなかでは何ら矛盾はありません。職人というのも好きです。「野点」のなかで生まれる手の動きやプロセス。もし、これよりピンッとくることがあればやるかもしれませんが。まだ、今は完成されていないというか、終わりのないことなのかもしれないのですが。自分にとってもお客さんにとっても心地好い場を求めています。
●以前、ルーシー・リーが好きだと言われていましたよね。器をつくることについてはいかがですか?
■彼女の器ってすごくいいじゃないですか。僕自身「野点」をやるようになってから、器づくりも面白くなってきました。「野点」をやるたびに新しい器をつくっています。自分のなかでは必然があってやっていることばかりなんです。こういうこと自分でいうのもどうかと思いますが、”ヒネリ”はゼロでやってます。そのままだけど、楽しいことがある、それを主張したい、そう思っています。
*「野点」の今後の予定
・青森駅前・港など各所にて
10月29,30,31日
11月2,3日に実施予定
お問い合わせは、TAM/A実行委員会事務局
tel:0177-23-5070
(青森NPOサポートセンター内)
・東京:阿佐ケ谷美術専門学校中庭
11月9日 12:00~
お問い合わせは、阿佐ケ谷美術専門学校
tel:03-3313-8655
・神戸:CAP HOUSE
http://www.cap-kobe.com/
1999年末より週に1回ずつ開催の予定
全企画/小雨決行、大雨中止
●お茶碗絵付け 1個1000円
●お抹茶(お菓子つき) 1杯250円
words:原久子
「焼立器飲茶美味窯付移動車」看板
釉薬絵付けをするお客さん
手直しをして窯につめる
窯の具合をみながらおしゃべりをするじんじん
絵付けを終え、窯詰めを待つ器
焼き上がった器を窯から出す
しばらく温度が冷めるのを待つためバケツに
お茶を飲む人とのおしゃべり
自分で絵付けをした器で飲むお茶は最高に美味しい
なごやかにお茶を飲む
きむらとしろうじんじん(Kimuratoshirojinjin)
1967 新潟県生まれ
1994 京都市立芸術大学大学院美術研究科修了
-焼立器飲茶美味窯付移動車/野点」開催歴-
1995 OMNI BUS展
(ギャラリーそわか他、京都市内各所にて)
芸術祭典・京(旧明倫小学校)
1997 CAPARTY vol.3 アート・ポーレン(神戸市旧居留地エリアにて)
1998 桜祭り(京都市高瀬川沿い)
南芦屋浜アートフェスティバル(芦屋市)
どないやねん展
(パリ国立美術学校、パリ市内各所にて)
1999 アートリンク谷中(谷中アートフォーラム前、谷中霊園、東宝チェリー)
アサヒビール社員向けワークショップ(アサヒビール本社ビル)
1999-10-29 at 09:26 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink
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» えっと、何のブログだったか。。 from Soulful Days
ペリリンとオグリンの不評ップリ(コメント)に、自分が申し訳ない気持ちに陥り…。
頑張れ観光課!!
それでもやっぱり。、「生の人間」というキャラに勝るものなし。
「きむら としろう じんじん
」さん
大阪は、西成区山王(東京の向島みたいな所?)の木造密集市街地で見つけたポスター。
ネットで調べたら、魅力的なアーティストさんでした。会ってみたい。
さて、話題は変わって、毎週木... [続きを読む]
トラックバック送信日 2011/06/05 11:53:39
コメント
今、マレーシアに居住しているのですが、北九州の友人から「じんじん」を知りました。北九州にも来られたんですか?一度、焼いて、野点してみたいですね!
投稿情報: YOSSHIY | 2010/11/04 0:01:39