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1999/09/22

Vol.14 渡辺英弘(Hidehiro Watanabe)

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'89年ギャラリィKで初個展を開き、その後'92年からアメリカ、フィラデルフィアにある美術学校、Philadelphia College of Art and Design(University of the Art)に約4年間留学する。
また、渡米直前の'92年にはレントゲンクンストラウムで行われたワンナイト・エキシビジョンに出品、以後レントゲンクンストラウムで個展を開いている。'99年5月に発表した「フローティング・シティ」では、アイデンティティーの変容や喪失といったテーマを飛行機などのモチーフを使って表現した。続いて11月にはトヨタのショールームでの展覧会も予定され、今後の展開が気になる作家である.

●作品の解釈って、どういうふうにすればいいのだろう。作家が言いたいことを理解するべきなのか、それとも見たままを感じるべきなのか。
以前レントゲンクンストラウムで「フローティング・シティ」をみて“自分の意識がどんどん変わっていってしまう状況”を作品から感じたのだが、作家と会って話をしてみると、それは作品のコンセプトとは随分違うものだった。
──ということで、今回は作家の渡辺英弘さんによる「本当はね、こういう意味で作ったんだ」というお話です。
アメリカで得た「自分」
●留学をされていたそうですね。
■'92年の9月に日本を出て、'96年12月に帰ってきました。渡米して最初は「日本人として」アメリカやそこに生活している人々を見ていたのですけど、時間が経つにつれ「人間として」いろいろ見ることが出来るようになりました。以前より客観的に広い視野で物事が見えるようになって、その頃の経験から前回レントゲンで発表した「フローティング・シティ」を作ることが出来たのだと思います。

●留学のきっかけは?
■当時「自分のなかに言葉がない」という思いが強くあって、つまり自分の作品について人を説得する言葉をもっていなかったのです。相手を惑わすようなことしか言えなくて、このままでは、いつまでたっても強い作品は作れないと思いました。そんな時にちょうどアメリカに行ける話があって、こういう時は大きな方向転換、起爆剤が必要だと思ったのです。僕が当時通っていた学校とアメリカの学校がコネクションを持っていて単位交換が出来るというものだったのです。あれは行ってよかった。大正解でしたね。

●そこで何を感じましたか?
■誰でも到達するところはひとつだと感じました。韓国から来た人もイタリアから来た人も、はじめは「韓国は韓国は」「イタリアはイタリアは」という国の意識が強いけれど、そういう状態に僕は、だんだん疲れてきたというか、良い意味で、「拘らなくてもいいのではないかな」と思うようになってきました。自国の意識は忘れてはいけないことなんですけど、国境や国籍を超えて自分を追求していき、自分らしさが出せることが必要だと思ったのです。

スピードの先にあるもの
photo ●アメリカでの制作で、以後続くようなコンセプトを持つ作品はなかったのですか?
■向こうにいたときは、まだ「これだ」というのは無かったですね。そのつど作品【写真A】を作っているときは「これだ」って思っているんだけど、作り終わると「浅はかだったなぁ……」とか。いろんな意味でまだまだ稚拙だと思いました。今から見れば、「よくこんなの作ったなぁ」って思ったりもしますけど、今作っている作品も5年後に見たらそう思うのかもしれない。でもそうやって先に進んでいくんだと思います。

●なぜ飛行機をモチーフに選んだのですか?
■飛行機は物理的にスピードを表すものだったからです。アメリカでは飛行機ってとても身近な乗り物で、車のような感覚で移動に使うんです。

●真っ白い飛行機の作品【写真B】がありますね。
■はじめは飛行機だけで自分が感じたことを表現しようと思ったのです。アイデンティティーの変容とか、喪失とかをね。それで、そういう状況を作っているのが世界中を駆けめぐる情報や人の流れの「速さ」で、飛行機は物理的にそのスピードを表すものだと感じたんです。飛行機ってどこかの国に属していますよね。だから、デザインとか国とかアイデンティティーを表現するものを取っ払っぱらって、白いシェイプだけにしました。どこの国にも属していない飛行機を作ってみたんです。

●「フローティング・シティ」【写真C】のコンセプトは?
■簡単に言うと「スピードによって変容していく、国や人間のアイデンティティーが、現実としてどういうものになっているか」をアーティストの立場から、観察してみた作品なんです。最初、僕が強く思ったのは、社会の流れが速いものだから本物が失われていって、世の中がどんどん単一なものになっていくのではないか、ということでした。これは僕が、日本を外から見た時よく見えたことだったんですけど、多くの情報が瞬時に世界中を駆けめぐり、それによって自分たちの国の文化や言語を見失い、統一化された世界を作り上げてしまう。これは、とてもネガティブな考えだけど、世界の動きとして、実際にあると感じたのです。しかし、必ずしもネガティブにだけ考える必要もないと、最近は思うようになりました。
世界中の国々がひとつの国になるところまで行き着けば、国単位の話でなくて純粋に人間単位としてもっと優れたものが出てくるのではないかって思うんですよ。失われていくというのは悪いことばかり、ではないと思うんです。生まれてくる世界もあるだろうし。

アーティストの仕事
●この先、このコンセプトで作品を展開していくのですか?
■そうは思っているんですけど、ただ、もっと勉強しなくてはいけないなって思っています。僕のコンセプトは、おぼろげながら皆が思っていることなんだろうけど、もしかしたら違うかもしれないし。

●方向性を探すことに不安は感じますか?
■不安は感じていません。自分が興味を感じる所へ行き、そこで自分が感じたことを僕なりに解釈し、人々に伝えるために形にするのがアーティストの仕事だと思っています。最初に感じることがとても大切です。とにかく感じて、自分の言葉に置き換えて、それが伝えられる形にするバランスが大切だと思います。

●何かを感じてそれを形にしていくっていうのは、どんな気持ちですか?
■悪くないですよね。悪くないし、もちろんすごく気持ちいいことなんだけど、感じたことを形にするまではドキドキします。でも、完成度とかは抜きにして、たいてい満足できる形には表現はできますけどね。それまでは緊張します。

●どのように作品は出来上がっていくのでしょう。
■まず、感じたことにあったモチーフを探し出します。イメージにピッタリのものに出会うと僕の中で、形がパパッと組み上がるのです。コンピューターを使って3Dのドローイング【写真D】を作ったりもします。僕が興味を持つものは幾何学的なものが多いから、CGとかでやっても違和感がないんです。

●次の作品の展開は?
■この間のレントゲンクンストラウムの作品で、次につながるような要素がでてきたので。街の作品【写真E】なんですけどね。自分が考えていることを100パーセント表現できているかっていうと、そうではないのですが、街の作品は自分のなかでは結構パーセンテージが高かったのです。

●今後の作品発表の予定は?
■今度はトヨタのショールームで展覧会をします。実はこれ、今日の朝に決まったばかりなんですけど!

●渡辺さんは、鑑賞者が作品のコンセプトとは違った感想をもつことに対して「あり」だと言っていた。私も「あり」なんだと思うようにしている。実際、作品の隣に作家がいつもいるとは限らないし、作品を買うわけでもないのに、ふらりと訪れた鑑賞者として画廊の人にアレコレと尋ねるのもどうかな、なんてちょっと思っているからだ。
だけど渡辺さんの言葉をきくことによって、はじめて気づくことがあったり、受けた印象の訳が解決することがあったり……。インタビューとは実に贅沢なものであった。

words:竹内美季


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White Buses/1997 ─写真B

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Drawing for Floating City/1999 ─写真D

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Untitled-Depurture, Arrival/1999 ─写真C

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Floating City/1999 ─写真C

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White bus/1996

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Where are we?/1999  ─写真E

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Buffet/1994  ─ 写真A

渡辺英弘
(Hidehiro Watanabe)

1966年 東京生まれ。

1999-09-22 at 09:18 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink

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コメント

とても素晴らしくて感動しました!
また展覧会を開かれる予定はありますか?
ぜひ見に行きたいと思います。

投稿情報: kazu | 2011/03/31 21:17:19