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1999/09/07
渡辺聡展−Landscape Paintings
「不明瞭で明瞭」
会場風景。中央が、エアーズロックのある「Ululu-Kata Tjuta National Park(ウルル・カタジュタ国立公園)」。周囲の薄い影のような部分は、ほんとはもっと鮮明。はがしたシールを1個おきに貼って風景が拡大している。
■引いて見ると絵になり、近づいて見ると、小さなドットの集積。テレビ画面に近づくと、アミ点が見えるのと同じ感じ。でも、スーラやシニャックのような点描ではない。白い紙に小さな○型シールを貼りつめ、上から絵を描いて、後からそのシールをひとつひとつ破がす。そうすると○が白く抜かれて、ネットの向こうに何かが見えるような奥行きが出る。'67年兵庫県生まれの渡辺さんは、何度か個展をしているが、まだ注目されたことがないという。でも、このオリジナルの手法は、リキテンスタインだって「オー、マイゴット!」というに違いない。
■ネットの向こうに見えるのは、エアーズ・ロック、ナイアガラの滝など、観光ガイドやポストカードで定番の名所写真を描いたもの。「行ったことのない人でもわかる」「行ったことがある人には記憶が引き出され、でも今はそこにいない」など、人と場所とのそれぞれの距離感を表しているという。渡辺さんも、ほとんど行ったことのない風景。でも、世界中で記号のようにわかる風景。
■思えば、行ったことのないのにわかること自体、不自然な話だ。メディアというネット=フィルターにも思いが及ぶ。「実際、行ってみると写真と違った」ということもある。カメラというフィルター……。
■そんなことを考えている間、私も含め、観客が同じ会話を繰り返していることに気づいた。「これは、タージ=マハル宮殿、ですよね?」「これは?」「ナスカの地上絵です」画廊オーナーの那須さんが、ガイドさんのように答えていく。目で見て不明瞭なものを、結局は言葉で確認してスッキリする。それは、バスツアーで「右手が有名な××です」といわれて、窓から確かめるのにも似ている。いや、思わず聞いてしまう不明瞭さがいいのかも。でも、ものごとをよく見てみる作品のはずなのに、近づきすぎると疲れる。考えすぎると袋小路に。遠くから見ていると、イメージが広がって楽しかったのになぁ。
■渡辺さん自身、「なんでこんなチマチマしたことをやるハメに……」と思うときもあるのでは? だって、シールを貼ったりはがしたりしている人生ってなんだ!? という、それ自体、不明瞭のワナに陥りそう。でも、それでいてこの手法は、“殴り込み”にふさわしい、明瞭でスケール感のある武器だとも思った。
渡辺聡展−landscape Paintings
1999年9月7日(火)〜10月2日(土)
TARO NASU GALLERY
江東区佐賀1-8-13食糧ビル2F
(地下鉄半蔵門線水天宮前駅または
東西線門前仲町駅より徒歩12分)
tel.03-3630-7759
入場無料
11:00〜19:00 日月休
この絵に使われたドットは8000個だそう。
「Taji Mahal」シールをはがした絵画。
同じ画面のアップ。窓のドットに注目。
こちらは、はがしたシールでつくられた絵画。見比べると窓のドットが黒いでしょ。
観光地にあるラクガキをモチーフにした「7/9/99 Satoshi Watanabe」。背景はパルテノン宮殿。私には「アート界に渡辺聡、参上!」みたいにも見えた。
1999-09-07 at 10:33 午後 in 展覧会レポート | Permalink
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» ドット化するロンシャンの教会 渡辺聡「Church in Ronchin」 from BLOG×PROCESS5
アート×ケンチクと題して、アートからの建築的アプローチを紹介していこうと思います。
TARO NASU GALLERYより
建物名称:「Church in Ronchin」
設計:渡辺聡
無数のドット状のシールを整然とキャンバスに貼ることで渡辺聡の制作は始まる。ペインティングの後、そのシールは一枚ずつ剥がされては別のキャンバスに移され、2点組の作品となる。ドットを敷き詰めた画面には、スフィンクスやルーブル美術館など、世界的に有名な建築や、誰もが馴染みのある風景が描かれてき... [続きを読む]
トラックバック送信日 2011/06/05 11:56:11
コメント
TBありがとうございます! アート×ケンチクは、増えてくるとおもしろそうですね。
しかし、久しぶりに見ると、私の記事拙くて笑います。フリーライター2年目くらいだ。
デジカメもあまりいいものじゃなかった。上記のドットはもっとまっすぐなんです。
お許しを。
投稿情報: shirasaka | 2005/08/21 0:48:22