The Drawing Center「Iannis Xenakis: Composer, Architect, Visionary」

イアニス・クセナキス展——ドローイングとしての音楽

NYから塩崎浩子さんのレポートです。

音楽を作曲することと建物を建てることは、似ているのだろうか？さまざまなパーツを組み合わせ、ひとつの大きな構造を作り出す。建築家を経て、現代音楽の作曲家として世界的に活躍したイアニス・クセナキス（Iannis Xenakis、1922–2001）の展覧会が、ソーホーのドローイング・センターで開催されている。彼のビジュアルワークを紹介する北米で初めての展覧会で、1953年から1984年に作られた、およそ100点のスケッチ、直筆の楽譜、建築プランのドローイング、レンダリング図面などが展示されている。

Study for Terretektorh (distribution of musicians), December 20, 1965
Ink on paper 9 x 9 inches Iannis Xenakis Archives, Bibliothèque nationale de France, Paris

クセナキスは数学的知識を建築と音楽に大胆に取り入れ、３つを融合したやり方で創作をしたことで知られている。「作曲家、建築家そして空想家」という展覧会タイトルにあるように、作曲家としての仕事、建築家としての仕事を展示空間で区切らず、「ドローイング」の視点で並列しているのがユニークだ。

Vector matrix for Achorripsis, c. 1964
Permanent marker on wax paper 20 x 64 inches Collection of Sharon Kanach

エンジニアとしてそのキャリアをスタートしたクセナキスは1950年代に建築家ル・コルビュジエの元で働き、1958年ブリュッセル万博の時、建築家としての代表作となるフィリップス館（フィリップス社のパビリオン）を設計した。展示を見ていくと、放物線（面）を使ったフィリップス館の建物の輪郭がその横に並ぶ楽譜に描かれた音の波形になだらかに連なっていくように、建築のかたちが線になり、線が音の波になり、音の波が楽譜になり、その楽譜で演奏される音の空間が建築になるさまが一続きに示されている。神経系統や木の枝のような有機的なフォルムのドローイングから生まれる音楽は、たくさんの音が違う場所からにょきにょきと生えて、互いにからまりあいながら伸びていくような、自由で奔放な魅力にあふれている。

「Terretektorh」は楽器の弾き手が聴衆の間に分散し、聴衆が88の楽器の間を自由に座ったり、動いたりしながら演奏を聞く作品。聴衆や弾き手の肉体と音が一体となって音楽が立ち上がる、その配置を示すドローイング（写真右上）は豊かに茂る大木にいくつもの果実が実っているかのようだ。色鮮やかな格子構造のドローイング「Achorripsis」（写真左中）は、れっきとした楽譜である。

中でも興味深かったのは「Mycènes Alpha」(1978年）。クセナキスが1977年に発明したUPICというコンピューター音楽ソフトで作った電子音楽である。横軸は時間の流れ、縦軸は音の高低、線の種類の違いは異なる音色を示す座標軸があり、そこに描かれたドローイング（図形や絵）の上を縦線が右にゆっくり動いていくと、その図形が電子音に変換される。11枚のパネルに描かれた図形や絵がそれぞれ約１分の楽譜を示している。このソフトはその後さらに進化し今も使われているが、これを使えばあらゆる図形や絵が楽譜となり、音楽を奏でることができるというわけだ。

Study for Metastaseis, 1954
Ink on paper 9 1/2 x 12 1/2 inches Iannis Xenakis Archives, Bibliothèque nationale de France, Paris

ある風と雨の激しい日に彼のCDを聞いていたら、その音楽と、雨の降る音や風がヒューヒュー唸る音、部屋のヒーターの音や車のクラクションなんかがあらゆる方向から聞こえ、混じりあい始めて、部屋全体に音が充満して（音の建築？）包み込まれるような気持ちになった。自然に沿った、大げさでない優しい音なのだろう。新しく自由な音楽の構造を作った人。音が目に見えるものとなり、ヴィジョンが音となる、その体験は刺激的だった。

The Drawing Centerでの「Iannis Xenakis: Composer, Architect, Visionary」展は4月8日まで開催

Words: 塩崎浩子