ローレル・ナカダテ「Fever Dreams at the Crystal Motel」

欲望の視線

NYから、塩崎浩子さんのレポートです。

今年１月のサンダンス・フィルム・フェスティバル、そして3月のMoMAとリンカーン・センターでのNew Directors/New Films 2009において初の長編監督作品 「Stay the Same Never Change」が上映された、ローレル・ナカダテ（Laurel Nakadate）の最新ショートビデオ作品と写真の展覧会が、チェルシーのLeslie Tonkonow Artworks + Projectsで開催されている。

Laurel Nakadate《Fever Dream with Rabbit 2》2009
Type C-print 30 x 45 inches Edition of 10
© Laurel Nakadate   Courtesy of Leslie Tonkonow Artworks + Projects

ローレル・ナカダテ（1975年アメリカ・テキサス州生まれ）はアマチュアの俳優を使って映像や写真作品を制作する。今回の展覧会では彼女自身が主人公になっている作品も多く、茶色い革のカウボーイブーツにぴったりとしたミニスカートはトレードマークのようによく似合っている。しなやかで躍動的な彼女の動きは美しく自信に満ちているようなのに、守ってあげたくなるはかなさも醸す。

展覧会タイトルの「Fever Dream」シリーズは主人公（ナカダテ）が熱にうかされて見た夢を映像化したような不穏なイメージに満ちている。森や湖のほとりを散歩するうちに中年男の怪し気な部屋に入り込んだり、暗闇の中でうさぎを抱き上げて何度もキスしたり。「Exorcism（悪魔払い）」シリーズにおいても、彼女は中年男と一緒に魔術的な呪文を唱えたり、床に身体を打ち付けたり、ひたすら踊ったり、悪魔払いの儀式めいた行為を繰り返す。

Laurel Nakadate《Exorcism in January》2009
Type C-print 30 x 40 inches Edition of 10
© Laurel Nakadate   Courtesy of Leslie Tonkonow Artworks + Projects

一方、「Good Morning Sunshine」ではナカダテの姿は見えず、優しいその声だけが映像に重なる。朝、10代らしき女の子たちの寝室を訪れ、彼女たちをそっと起こし、恋人のように話しかけながら着ているパジャマを脱ぐようにうながすのだ。

写真作品「Lucky Tiger」は、ビキニや下着姿でピンナップばりの挑発的なポーズをとったナカダテのスナップショットの表面に、ネット掲示板で募集した中年の男性と一緒に黒いインクで指紋をべたべたと押した作品。彼女のキュートなポートレートは愛撫されているようにも汚されているようにも見える。

Laurel Nakadate《Lucky Tiger #1》2009
Type C-print and fingerprinting ink 4 x 6 inches Unique
© Laurel Nakadate   Courtesy of Leslie Tonkonow Artworks + Projects

何かを見つめる彼女と見られる彼女、そして見ている私たちと見られている私たちーー。ナカダテの作品では誰もが主役であり、観察者である。ナカダテが〈女の子が服を脱いでいくさまを〉視る、ナカダテが〈夢の中で中年の男たちから〉視られる、私たちが〈列車の中でこっそり胸をはだける彼女や道で放尿する彼女を〉視る、私たちが〈大きな花火の下で踊る彼女の挑発的な視線で〉視られる。そして視るものと視られるものとの間には、時に居心地の悪い緊張感に満ちた、あやうい関係が生じる。ナカダテはおずおずとパジャマを脱ぐ女の子たちにこう話しかける、「あなたはとってもかわいい。あなたは自分が一番かわいい女の子だって分かってるでしょう？」。

ローレル・ナカダテ「Fever Dreams at the Crystal Motel」は7月24日まで開催。Leslie Tonkonow Artworks + Projects

Words: 塩崎浩子