« ディアの跡地にアートセンター「X」誕生 | メイン | 宮本智之 運動と洞穴展 »
2009/05/05
ニュー・ミュージアム「The Generational :Younger Than Jesus」
若さと軽さ
ニュー・ミュージアムで4月8日に始まった「The Generational :Younger Than Jesus」は、同美術館としては初めて若い世代に焦点を絞って開いた展覧会である。展覧会タイトルが示すように、1976年以降に生まれた33歳以下のアーティスト50人が世界25カ国から選出されている。美術館での展覧会は今回が初めてというアーティストも多い。
インスタレーション風景。手前がChu Yun、奥がCory Arcangel の作品。Courtesy of the New Museum
第一印象は「若いのに、おとなしい」。世代的な特徴なのか、偶然なのか、それとも経費の削減なのか、展示された約145作品のうち油彩やアクリルを使ったいわゆるペインティングや大掛かりなインスタレーションはほとんど見当たらず、代わりに写真、映像、ドローイングが多数を占めている。また、デジタルやテクノロジーを自由にあやつり、複数のメディアを組み合わせた表現も多い。
限られたアーティストと作品からこの世代のアートの顕著な特徴を見い出すことは難しかったが、アイデンティティーの探究や現代社会における自分と世界との距離のとりよう、といった共通した問題意識は読み取れた。
インスタレーション風景。手前の白い台の上の作品がLiu Chuang、左の壁の絵画がTala Madaniの作品。Courtesy of the New Museum
3月にチェルシーのルーリング・オーガスティン画廊での個展を終えたばかりのJosh Smithは、自分の個展のチラシ、古いポスター、新聞、自分の作品のコピーなど、様々な素材を巨大パネルにコラージュした作品(写真下)を展示し、「アート作品とは、それを作る自分とは何か」という疑問を投げかけている。Tala Madaniの小さな具象絵画(写真中)は、中年男性たちがパンツ1枚で誕生日ケーキの前でふざけあったり、ゲームをしたりしているのだが、単純に笑えない皮肉や毒も込められている。Cory Arcangelの目のさめるような美しいブルーの抽象画(写真上)は、Adobe Photoshopのプログラムで見つけたカラースペクトラムを出力したもので、レトロなテクノロジーを鮮やかに転換させて見せている。
Josh Smith《Large Collage (New Museum)》2009
Mixed mediums on panel 60 x 48 in (152.4 x 122 cm)
Courtesy the artist and Luhring Augustine, New York
中国のアーティストはインパクト充分で、観客の注目を特に集めていた。Chu Yunの作品「This is XX (女性の名前が入る)」(写真上)は、女性に睡眠薬を飲んでもらい、展覧会場で白いシーツにくるまれてぐっすり寝込んだ彼女らを「生きた彫刻」として展示していた。Liu Chuangの「Buying Everything on You」シリーズ(写真中)は、通りを行く人々に声をかけて頭から足の先まで、身に付けているものすべてを買い取ることを依頼し、その人の持ち物すべてを作品化している。洋服、下着、靴、かばんはもちろん、携帯電話、財布、写真やID、化粧品、卒業証書など、本人以外のありとあらゆるものを、白い台の上にむき出しのまま並べ、そこにいない本人の存在を空しく浮かび上がらせている。
全体を見渡すと、重さや閉塞感のない表面的な軽さが目立ち、こざっぱり、こぎれいにまとまり過ぎている印象を抱いた。そして、その極私的で軽やかな世界が、その下に深々と横たわっているはずの狂気や衝動、病的な暗さなどをあっけらかんと暗示しているように思われた。
「The Generational :Younger Than Jesus」展はニュー・ミュージアムで6月14日まで開催。
Words: 塩崎浩子
2009-05-05 at 11:27 午前 in ワールド・レポート | Permalink
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
https://www.typepad.com/services/trackback/6a014e885bb6e5970d01538ef3fbbe970b
Listed below are links to weblogs that reference ニュー・ミュージアム「The Generational :Younger Than Jesus」: