ディアの跡地にアートセンター「X」誕生

１年限定、非営利の意欲的な試み

NYから塩崎浩子さんのレポートです。

ディア・センター・フォー・ディ・アーツがあったチェルシー22丁目の同じビルに、3月7日、アートスペース「X」がオープンした。1年間限定、非営利のアートスペースで、1年を4期に分けて展覧会、パフォーマンス、レクチャー、イベントなどを企画している。旧ディアの建物をほぼそのまま生かした空間で展覧会を見ていると懐かしい気持ちがこみ上げてきたが、残念ながら、当時1階とブックショップの床や壁を彩っていたホルヘ・パルドの作品は奥に隠されていて見ることができなかった（再び公開されることを切に願う）。
Derek Jarman 《Early Films (Super-8mm) 》 Installation View at X Initiative, New York. Courtesy X Initiative and James Mackay, London

3月7日に始まった第1期の企画は3アーティストの個展を開催。1階ではミカ・タジマの巨大なインスタレーション「The Extras」（写真左）。映画や舞台セットのような立体や照明が並ぶ中で彼女のパフォーマンスが上映され、劇場的な空間を作り上げている。ディアがあった頃、展示を見終えて遠く河向こうのニュージャージーを眺めていた屋上には、クリスチャン・ホルスタッドの「Light Chamber (Part 2)」（写真右下）を展示。各階をつなぐ階段の吹き抜け部分には、ディアのコレクションであるダン・フレイヴィンの蛍光灯を使ったライトワークが再設置されている。

そして2、3、4階と最も広いスペースを使っているのが、イギリスの映像作家デレク・ジャーマン（1942〜1994）の展覧会（写真右上）。これまでアメリカでほとんど上映されることのなかった、スーパー8で撮影した18作品を紹介している。インダストリアル・ミュージック・バンドのスロッビング・グリッスルとの競作「TG Psychic Rally in Heaven」（1981）、日記のように撮りためた生活の記録と、使わずに残されたフィルムの断片を重ね継いだ「It Happened by Chance」（1972/1983）、監督デビュー作「In the Shadow of the Sun」（1974）、後の長篇でもそのイメージが繰り返し登場する70年代の短編など。1秒も定着することなく明滅するシーン、反射する光、炎、鏡、美しい少年たち、イメージの淡い重なり……その作品には等しく「祈り」や「救済」の光が満ちている。
Mika Tajima 《The Extras》 2009, Installation View at X Initiative, New York. Courtesy X Initiative

ハード部分には旧ディアの面影を残しつつも、ソフト面においては、美術界へも押し寄せる不況に呼応してか、ディアの頃よりも双方向的、問題提起型のプログラムが多く盛り込まれている。Xはギャラリストのエリザベス・ディーが中心となって設立。アドバイザリー・ボードにはマウリツィオ・カテランやシンディ・シャーマンらアーティストのほか、ギャラリスト、キュレーター、研究者らが名を連ねる。第1期の展覧会は5月まで。期間中は毎週イベントを開催し、約25年ぶり！に再結成したスロッビング・グリッスルのライブも行われる。1年という短い期間だけに、機動力をフルに使った密度の濃い活動を期待したい。
Christian Holstad《Light Chamber (Part 2) 》2009, Installation View at X Initiative, New York. Courtesy X Initiative and Daniel Reich Gallery, New York

Xは水〜土曜日の午前11時〜午後6時オープン、入場無料。
http://www.x-initiative.org/