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2009/03/06

Kirsten Deirup「Dogsbody」展

空間の裂け目にあらわれる異界

Flatiemail_2NYから塩崎浩子さんのレポートです。

Kirsten Deirupの小さな風景画は、人間が死に絶えた世界のヴィジョンなのだろうか、それともまだ見たことのない新しい世界の像だろうか。「Flat I」(写真右)で描かれているのは地平線まで続く荒れた野原である。紺碧の空の下、その荒れ野の真ん中にアーチ形の「平面」が地面に長い影を落として立っている。演劇の舞台で使われる書割のセットに似た少し厚みのある板。宗教画のようなモチーフが描かれているのだが、壊れたり欠けたりしてすべてを見ることはできない。荒れ果てた風景を切り裂いて、異なる時空の世界が忽然とあらわれたかのようだ。

Kirsten Deirup《Flat I》2008
Oil on linen mounted on panel 20 x 30 inches
Images courtesy of Nicelle Beauchene Gallery.

Kirsten Deirupは1980年アメリカ、カリフォルニア生まれの女性アーティスト。その個展が現在Nicelle Beauchene Galleryで開かれている。チェルシーに対抗する新興ギャラリーエリアとして注目を集めているロウア−・イースト・サイドに2008年4月にオープンしたばかりの新しいギャラリーだ。

Dogsbodyemail

2008年6月のグループ展で初めて彼女の作品を見たのだが、緻密な画力はその時から目立っていた。画面の細部にまで至る丹念な描きこみ、2次元空間と3次元空間とが混在するシュルレアリスティックな世界。その写実が厳密であればあるほど、そこに「何か」が決定的に欠けていること、不在であることを思い知らされ、むずむずとした違和感を覚えるのである。

Kirsten Deirup《Dogsbody》2009
Gouache on paper 15 3/4 x 36 inches
Images courtesy of Nicelle Beauchene Gallery.

グワッシュによるドローイングのシリーズでは、古びた劇場の舞台のような場所が描かれていてここにも人の気配はない。展覧会タイトルになっている「Dogsbody」(写真上)では、ぼろぼろのカーテンや薄っぺらいセットが並ぶ舞台の中央に崩れ折れたキリンや動物らしき物体、木の枝などが溶けて混じり合い、うす気味悪い塊(あるいは神の新しい創造物か)となって投げ出され、スポットライトに淡く照らし出されている。Noseemail

朽ちて草や木に侵食されていく建物、壊れていく文明。そのカタストロフィ的な世界にあって、「Flat I」にある欠け残った聖女の像はかすかに残る救済のしるしに見える。悪夢の残滓に満たされた静かな世界は冷たくもどこか穏やかで、私をそのもっと奥へと手まねいていた。

Kirsten Deriup《Nose》2009
Gouache on paper 18 x 23 inches
Images courtesy of Nicelle Beauchene Gallery.

Nicelle Beauchene GalleryのKirsten Deirup「Dogsbody」展は3月22日まで開催。

Words: 塩崎浩子

2009-03-06 at 01:30 午前 in ワールド・レポート | Permalink

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