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2008/05/07
サンドリン・ロウケット個展
ベトナムから、motoko udaさんのレポートです。
「Milk」——3月に開催された出産後初の個展になるサンドリン・ロウケットの招待状のタイトルをみた時、咄嗟に<ミルク→母乳→出産直後のアーティスト→子供ができると作風にも即影響か?!?>の図を思い描いた。
(写真全て)from Sandrine Llouquet’s installation view, courtesy of the artist& Galerie Quynh
ホーチミン市で2005年よりワンダフル・ディストリクトというアーティスト・グループを設立して、自身の創作活動や地元アーティストとのコラボレーショ ンと精力的に活動してきたベトナム系フランス人のサンドリン・ロウケット。昨今では第1回シンガポールビエナーレや第52回ベニスビエナーレにもモガ ス・ステーションというグループ名で参加。卓越したデッサン力とアニメーション技術をいかした彼女のスタイリッシュでエッジーな作風を知るゆえに<その エッジを喪失してしまったのか!?!>とソフトなタイトルから判断した私のほうが実は短絡的だったことに会場に一歩足を踏み入れてすぐに気づかされた。
会場内は照明が落とされている。テリー・バーナードによるダークなサウンドトラックがスピーカーから流れる。まず一階の左手の壁には彼女のドローイングの 作品が連なる。日常の人間の一瞬の表情や仕草などをモチーフにしたこれらの作品に関してはロウケットの過去の作品の延長線上にあり違和感はない。会場を奥 に進むと彼女の新しい試みである5体のプレキシグラス(アクリル樹脂)を使った立体作品が並ぶ。これらの作品にはスポットライトがあたり、壁面やコンク リートの床に影絵の世界が出来上がる。その素材のスムーズな表面と、浮かび上がる美しいシルエットに対して、彼女の下絵をもとにカットされたモチーフが実 は奇形の子供であったり、得体のしれない生き物であることが「本当は恐ろしい童話」シリーズのようであり、全体的に幻想的な世界観のなかに背筋をゾクッと させる空気がある。この影絵を観ながら観客は自分なりのストーリーを築いていき、そして2階のまるで空から赤いインクを落としたような大きな立体作品にた どりつくと今度は「飛び出す絵本」ならず、まるで自分が自分の作り上げたお話の中に入り込んでしまったようなセンセーションを覚える。
作品の配置も歩き回る観客の思考の動きを巧みに計算している。彼女の強みであったドローイングにおける静かな世界観がはじめて立体感をおびたと感じる個展であった。
NOTE:
オンラインエキジビションがギャルリー・クインのウェブサイトから閲覧可能.。
Sandrine Llouquet (サンドリン・ロウケット)
Milk (ミルク)
2008年3月6日〜29日
Galerie Quynh (ギャルリー・クイン)、ベトナム・ホーチミン市
2008-05-07 at 07:16 午後 in ワールド・レポート | Permalink