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2008/04/27

トマ・アブツ展

NYから塩崎浩子さんのレポートです。

Abts1_keke 現代の作家たちの、画面の大きさや見た瞬間のインパクトで観客を驚かせる絵、そして具象絵画を見慣れた私にとって、ニュー・ミュージアムで4月9日に始まったトマ・アブツ(Tomma Abts)の絵はどこか風変わりで新鮮だった。

Tomma Abts《Keke》2006
Acrylic and oil on canvas 18 7/8 x 15 in/48 x 38 cm
Collection of Daniel Buchholz & Christopher Müller, Cologne

エレベーターのドアが開いたとたん視界がぱっと開け、目の前に天井の高い、真っ白な、無機質でインダストリアルな空間が広がる。作品よりも先にまずその空間全体が体にぶつかってくる感じ。その広々とした展示室と相対して、同じ大きさの小さな絵が、左右そして正面の壁に等間隔に展示されている。ぽつぽつと並ぶ絵の上部には何もない白い壁が天井までそびえ立ち、その豊かな余白が絵を引き立たせ、空間全体に瞑想的な静けさを与えている。

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描かれているのは、未来派の絵画の一部分のような、ジグザグの直線、多角形、円や弧、ストライプなどが組み合わされた幾何学的なフォルム。何々のようと説明しにくい、でも未来のどこかに出現しそうな不可思議なかたちや景色の一部分である。マスキングテープの跡のような絵の具の層のズレが画面のあちこちに見られ、何度も描いては塗りつぶした色とかたちが幾層ものレイヤーを形作っている。エッジの効いた線には時おり影のような薄い線がそって流れ、わずかな立体感と視覚的効果を生み出している。

Tomma Abts《Tabel》1999
Acrylic and oil on canvas 18 7/8 x 15 in/48 x 38cm
Mima and César Reyes Collection, San Juan, PR

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その色は子供の頃に使っていたクレヨンのような——あずき色、ふかみどり、若草色、だいだい色、檸檬色、れんが色、黄土色——やわらかくナチュラルな色ばかり。重なっているはずなのににごりがなく、層を通じて下の色がこすり出されているような複雑な色の質感を持っている。

インスタレーション風景 Courtesy of the New Museum

1967年ドイツ、キール生まれのアブツにとって、これがアメリカで初めての大規模な個展である。パンフレットに収録されているピーター・ドイグによるアブツへのインタビューによると、彼女はベルリンのアートシーンが活気づき始め、彼女と同世代の作家たちがちょうど作品を発表し始めた時期(1995年)にベルリンからロンドンへ活動拠点を移している。ドイツ、イギリスのアートシーンのどちらにも属さない、ストレンジャーとしてのロンドンでの生活によって、自らの制作に没頭することができ、その作品は2、3年後に大きく変わったという。

かつては大きな絵も描いていたそうだが、試行錯誤の後、近年は小さなサイズの作品、彼女自身の言葉で言えば「私にとって絵画本来のサイズに感じられる」(前掲インタビューより)48×38cmの絵画ばかりを描いている。禁欲的にさえ思えるこの統一された画面の小ささこそがアブツの作品の強みであり、必然なのだろう。大勢の観光客が去ってしまってからも、作品の前に立ち、顔を近付けたり遠ざけたりしながら、その小さくて大きな絵に包み込まれていくような感覚をしばらくの間味わっていた。

*トマ・アブツ展は6月29日まで開催。
ニュー・ミュージアム(New Museum)

* 4月25日から森美術館で始まる「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」にトマ・アブツの作品が出品される予定(アブツは2006年度ターナー賞を受賞)。

Words: 塩崎浩子

2008-04-27 at 04:54 午後 in ワールド・レポート | Permalink

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