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2008/04/10
リンデン通り(Lindensr.34/35)とその周辺
ベルリン(Berlin)からかないみきさんのレポートです。
数ヶ月の間、ベルリンを離れていた。(中略)
知人との再会 、ギャラリーまわりの再開により最近のアートシーンを追う。ギャラリーの移転やセカンドスペースの出現、パートナーとの決別による改名など、話題には事欠かない。
こぢんまりとしたスペースからスタートした新進ギャラリーが、大きめのスペースへと移転するケースや、いくつかのギャラリーが共に新天地を求める例も多い。
(写真はリンデン通りのギャラリーコンプレックスの外観)
数ヶ月の間、ベルリンを離れていた。
久しぶりのこの街では、戻った2日後にストライキが始まり、バス、トラム、地下鉄の運行がない日がおよそ10日間続いた。車も、ましてや自転車すら持たない私には、ひたすら歩く日々が待っていた。3月に入っても、ここはまだ寒く、風も強く、さらに雨は雪となる。公共機関をこんなにも長い間止めてしまうなんて、信じ難い。「僕の有り金をはたいて定期券を買ったばっかりだぜ」とぼやく友人。ああ、ベルリンへ戻ってきたと実感する。「貧乏、だけどセクシー」とは、市長によるベルリンの形容。雨に打たれてずぶ濡れになりながら道を行く人々は、セクシーに見えなくもない。何はともあれ、この街はただ黙って、じっと在る。
知人との再会 、ギャラリーまわりの再開により最近のアートシーンを追う。ギャラリーの移転やセカンドスペースの出現、パートナーとの決別による改名など、話題には事欠かない。
こぢんまりとしたスペースからスタートした新進ギャラリーが、大きめのスペースへと移転するケースや、いくつかのギャラリーが共に新天地を求める例も多い。この街には、空っぽになったまま置き去りにされている場所が、まだいくつも点在している。2年前のベルリン・ビエンナーレで、フェイクの「ガゴーシアン・ギャラリー」が登場した時には、まさかガゴーシアンが、ベルリンに支店を出すはずがないよなと、みな口を揃えて言っていた。しかし、そのおよそ1年後、ロンドンとチューリッヒにスペースを持つ大型画廊、ホーンチ・オブ・ヴェニソンが、ハンブルガーバーンホフ現代美術館の裏に、支店をオープンさせた。車工場などが並ぶこの殺風景な一帯、ハイデ通り(Heidestr.46-52)は、10にも及ぶギャラリー、アーティスト・ランやプロジェクトスペース、作家のスタジオやクラブが軒を連ねる、今や要チェックのコンプレックスとなっている。ベルリンでは、どこに何が起こるかなど予測不能である。
今回は観光名所、チェックポイント・チャーリー跡の近くにできたギャラリーコンプレックスを紹介したい。もともと、このエリアには、マックス・ヘツラーやアルン
ト&パートナーなどの老舗をはじめ、およそ10軒のギャラリーがツィンマー通り(Zimmerstr.88-91)の建物に集まっていた。そのうちのひとつだった、ガレリー・ノルデンハーケ(Galerie Nordenhake)が昨年の秋に、そこから徒歩およそ10分の場所、リ
ンデン通り(Lindenstr.34/35)にある建物を、まるまる買い取ったのだ。古くどっしりとし
た石造りの外見を持つそれは、8年もの間、空き家となっていた。現在9軒のインターナショナルなギャラリーが入る。ベルリンにまつわる近現代の作家コレクションや企画展が魅力のベルリーニッシェ・ガレリーや、ダニエル・リベスキンドによる建築がみごとなユダヤ博物館も近隣にある。
ここに、デュッセルドルフから支店をオープンさせたのは、コンラッド・フィッシャー・ガレリー(Konrad Fischer Galerie Berlin)。60年代から、ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートを紹介してきた大御所だ。今回のオープンは、所属作家たちの「ベルリンでも作品を紹介して欲しい」との強い要望にもよ
るとか。スロベニアにもスペースを持ち、以前はキュレーターと
して活動していたグレゴール・ポドナー(Galerija Gregor Podnar)による新ギャラリーでは、アートマーケットの確立していない東や北ヨーロッパの作家を中心に紹介してゆきたいという。ノルウェーのスタヴァンゲルから支店をオープンしたガレリー・オプダール(Galerie Opdahl)は、海外やドイツ国内の都市からベルリンを日々訪れるアートピープルの数の多さに驚く。アートフェアやビエンナーレなどとは関係なく、コレクターも、ベルリンのアートシーンをチェックするために頻繁にやって来るらしい。ポーランド人の女性二人によジャック・ブラニカ(Żak | Branicka)では、昨年のドクメンタ12でも注目を集めたゾフィア・クーリクによる作品を展示中。ポーランドの作家に限らず、インターナショナルな作家と仕事をしてゆきたいとのことだ。
*写真(上)シャイブラー・ミッテへはこの小道を入る、(中)シャイブラー・ミッテの入口、(下)シャイブラー・ミッテで開催中の展示風景
Anthony Goicolea
Related, 2008
Installationshot
Photo: Simon Vogel
Courtesy Aurel Scheibler, Berlin
さらに、ちょうどこのリンデン通りとツィンマー通りの中間点にある工場地帯にも、3つのスペースがオープンした。ここには、トルコの文化センターやディスコも隣接し、トルコ人によるウェディングパーティーがしきりに行われる。巨大な安売りスーパーも入っているため、買い物にくる人も行き交う。なんとも不思議なエリアだ。ヴァリー・エクスポートの個展を開いているCUC(Charim Ungar Contemporary Berlin 、*写真右上)は、親しいミュンヘンとウィーンの二つのギャラリーが共同で経営する。
彼らのほ
とんどの所属作家が、ベルリン在住だ。コマーシ
ャルというスタンスを保ちながらも、ここでは実験的に様々な作家を紹介したいと言う。ケルンから移転してきたガレリー・アウレル・シャイブラー
(Galerie Aurel Scheibler )は、2年前に旧西ベルリンのシャーロッテンブルク地区に第一店をオープンさせた後、ここへセカンドスペース、シャイブラー・ミッテ(ScheiblerMitte)を構えた。倉庫として使われていた天井の高い空間を生かした展示をしている。ガレリー・バルバラ・トゥム(Galerie Barbara Thumm)も、セカンドスペース(*写真右下)を持った。そしてもうすぐ、カーリエー・ゲバウアー(carlier | gebauer)がこの建物内へ移転する。
この数年で、ベルリンの家賃の値上がりは顕著だという声もよく耳にするが、それでも、いまだにここは、「格安な首都」だ。海外からベルリンへ支店をオープンさせることは、アートフェアに出すのと同じようなものだと嘯くアメリカ人画商の話を思い出した。
現在、コレクションを持たない企画展のみだけで運営される現代美術のためのスペース、クンスト・ハレの構想がベルリンで練られている。ギャラリー群の勢いに負けず、今後は美術館レベルでの大規模な展覧会の充実も期待したいところだ。
2008-04-10 at 05:08 午後 in ワールド・レポート | Permalink
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