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2007/12/26

淡水のベランダから

台湾から、岩切みおさんのレポートです。

Nindityo1_2 11月、ニンディティオ・アディプルノモとN.S.ハーシャというふたりのアジアのアーティストが、台北の北にある河口の町、淡水に滞在した。ふたりとも、アジアではかなり活躍している部類に入る。ニンディティオは、インドネシアの現代アートを牽引してきたジョクジャカルタのアートスペース、チェムティ・アート・ハウスを立ち上げたひとりだ。日本では、2002年の第2回福岡トリエンナーレに参加している。インドの画家ハーシャも、同じ年の福岡トリエンナーレに参加しており、子ども向けのワークショップを得意とする。
左—《10人の淡水の女性たちとのインタビュー・プロジェクト》の展示風景 photo by Mio Iwakiri

残念ながらハーシャの小学校でのワークショップは時間が合わず同席出来なかったのだが、ニンディティオの作品は見ることが出来た。ぼろぼろの古い日本家屋の一室で展示されたのは、サウンド付きのインスタレーションだ。
 台湾では、出来る限りスペースを有効利用したいのか、アパートやマンションのベランダの外に外壁を作って、無理やり家の内部に変えてしまっている光景をよく見かける。外から見ると、つぎはぎらだけのファサードが、建物全体のバランスを壊し、美観を損ねているが、そこには生活感溢れるエネルギーもある。淡水近辺のアパートも例外ではなく、そんなちょっと「醜い」台北郊外の典型的な風景が、美しい淡水河のほとりにひろがっている。ニンディティオはこれに注目し、類似のベランダをインスタレーションとして再現した。先述の日本家屋の薄暗い部屋の窓際に、作家自ら作った装飾付きの鉄製の格子が、窓を囲むように設置された。その内側には、いかにも台湾らしいプラスチックなバスカーテン。窓ガラスにはたくさんの家族写真が貼られて、ちょうどライトボックスのような役割を果たしていた。
 サウンドは、淡水に住む10人の女性たちに彼女らの人生についてインタビューし、録音した声だ。家族のこと、自分のこと、思い思いに語る声が、薄暗い部屋の中でえんえんと流れる。ニンディティオにとって、女性は、都市社会を形成する大切な一部分なのだという。作品を観ていると、まるで誰かのアパートの窓に近づいて、人々の生活を覗き込んでいるような気分になる。
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左—ニンディティオ・アディプルノモ photo by Mio Iwakiri

オープニングには、インタビュイーの淡水の女性たちが友人を連れて訪れていた。ニンディティオにとっては、彼女らとの交流が何よりも貴重なものだったという。ウー・マーリーなどの例外を除いて、コミュニティ・アートがあまり発達していない台湾で、こういった市民のあいだに入り込んで行くようなアート作品は、関わった人々にとっても、とても新鮮に感じられたに違いない。筆者には、彼らの滞在制作が、台湾のアート界からはほとんど無視されていたのが非常にもったいないと感じられたのだが、そこには、主催者のPR不足のほかに、アジアのアートに対する台湾社会全体の不理解と偏見の問題もあるのだろうと思う。その台湾のアート自体が、日本ではアジアのアートとひとくくりにされていることを思うと、皮肉な気がする。もちろん、同じ構図は、世界全体から見た日本のアートにも言えることで、結局はみな同じ、アジアのアートであるのだが。

2007-12-26 at 10:08 午前 in ワールド・レポート | Permalink

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