« ライターの近日遊覧予定【10/27~】 | メイン | ギュウとチュウー篠原有司男と榎忠 »
2007/10/29
台湾ビデオアートの次世代
台湾から、岩切みおさんのレポートです。
国立台北芸術大学のアート&テクノロジー研究所は、2001年の設立以来、毎年のように傑出したアーティストを出していることで知られる。2002年の台北ビエンナーレに参加した王雅慧(ワン・ヤーホェ)は、地元学生として初めてこういった大型国際展に参加したことが話題となり、台湾のアーティストの年少化に先鞭を付けた。郭奕臣(グォ・イーチェン)は、2004年の台北ビエンナーレに参加後、翌年のベネツィア・ビエンナーレ台湾館、2006年のシンガポール・ビエンナーレと、階段を駆け上るように国際的活躍を見せてきた。また、以前このレポートで紹介した、今年のドクメンタに参加の曾御欽(ゼン・ユーチン)も、ここの出身だ。この3人がこの夏から秋にかけて、個展を開催した。それぞれ新しい展開を見せており、とても興味深く感じたので、少々長くなるがここに紹介したい。
1)Wang Ya-hui, Visitor, single channel video, cooperation by Lee Jihong & Cho Wen-chin, 2007, photo courtesy of the artist
8月に新苑藝術で開催された王雅慧の個展<I've been here before and will come again>では、作家の祖母の住む古い家に、可愛い小さな雲が突如出現するという《Visitor》や、住宅街の中に突如として光る物体が出現し、去って行くというこれもファンタジーな《When I look at the moon》などが展示された。《Visitor》のように、映像を加工して不思議なシチュエーションを作り出す方法論はとても今日的だが、どちらかというと《When I...》の、実際に光を当てた風船を撮影し、アナログな方法論で浮遊感のある異質な時空間を生み出したところに、新しい可能性を感じた。
最も大規模な個展を展開したのは、郭奕臣だ。上記の新苑藝術のほか、台灣國際視覺藝術中心(TIVAC)や、西門町や東区の大型電光掲示板を毎日のように一定時間借り切っての展示も行った。オープニングでは、通りすがりの2000人と一緒に4000個の風船を飛ばすパフォーマンスを行っている。これまで国際展に出たことはあっても、個展を開催したことがなかった彼が、どんなにか心を砕いてこの展覧会に挑んだかがよく分かる。作品は、ふたつの会場でまったく違う印象を与えた。個人的には、未来の廃墟という架空の物語を作り込んだ新苑での展示は、やや肩に力が入りすぎているように感じた。それよりも、TIVACで展示されていた、幼い頃亡くなった彼の父親の写真と自身の写真のポジの画像を、光学的なキネティック装置で、計4枚の布に差し向かいでピントを合わせたり外したりしながら映し出す作品《遠景》が、シンプルであるがゆえに力強く感じた。スクリーンである布が、ふわふわと優しくも頼りなくはためきつつ、うりふたつの親子を映し出し、記憶の甘さと切なさを絶妙に捉えていた。
曾御欽のチーウェン・ギャラリーでの個展「Acid Tongue」は、ドクメンタからの帰国後に作られた新作三点を展示したものだ。とにかくこの作家の多産さにはいつも唸らされる。
曾は、実験映画の分野からビデオアートへと移った作家だ。実験映画作品では、白黒の映像に独白が淡々と流れ、虫を殺すなどの暴力的なシーンも見られたが、ビデオに移ってからは、子どもを素材に、白を基調とした明るい画面の作品が増えた。もちろん、毒をかわいらしさのオブラートで包んでいたのは、ある意味見え見えだったのだが。今回彼は、自分の作品制作の原点に戻ろうと白黒を強調した作品群を発表。自分の内面を反映したという、家族の団らんや学校など楽しい場面を、醜く暗いものへと転化した作品《Acid Tongue》はインパクトがあった。ただ、どちらかと言うと、「懐中電灯で照らされたら逃げること」というルールを決めて、数人の子どもたちと電気を消したアパートで数週間、遊びながら撮影した作品《Ahead》のほうに惹かれた。光に照らされた室内の粗い画面の中に、時々子どもが現れては消える。この「遊び」がもたらす親近感は、観客にとって、作品を彼ら自身のほうへぐっと引き付ける力となっている。
彼ら3人の作品のタイプはそれぞれまったく違うし、ここで何か結論のようなものを無理矢理こじつける気はないが、ひとつだけ彼らの作品の共通項を挙げるとすれば、それは「考え込まれたシンプルな画面」だろう。それが大学院での訓練の結果なのかどうかは分からないが、彼らがみな、映像芸術言語に非常に長けていることは確かだ。台湾のビデオアートの次世代、ますます目が離せない。
2)Wang Ya-hui, When I look at the moon lambda print/ single channel video, photo by Kuranaga Kensaku, cooperation by Yuki Okumura, 2007, photo courtesy of the artist
3)Kuo I-chen, Epiphany, video installation, 2007, photo courtesy of the artist
4)Tseng Yu-chin, Ahead, 9 channel video, 2007, photo courtesy of Chi-wen Gallery
◎王雅慧個展 <I've been here before and will come again>
新苑藝術 (Galerie Grand Siecle)
7 - 30 Sep 2007
◎郭奕臣個展 <突然変異>
新苑藝術 (Galerie Grand Siecle)
12 Oct - 7 Nov 2007
◎曾御欽個展 <Acid Tongue>
Chi-wen Gallery
6 Oct - 17 Nov 2007
2007-10-29 at 11:20 午後 in ワールド・レポート | Permalink
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
https://www.typepad.com/services/trackback/6a014e885bb6e5970d015432c73f5d970c
Listed below are links to weblogs that reference 台湾ビデオアートの次世代: