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2007/09/02
よりアピールする笑いへ— 崔廣宇個展
台湾から、岩切みおさんのレポートです。
去年からオランダのライクス・アカデミー にレジデンス滞在している台湾のアーティスト崔廣宇(ツェ・グァンユー)が、この夏、台北の誠品画廊で久しぶりの個展を開いた。今回展示したのは、崔がここ5年ほど取り組んでいる《表層的生活圏》シリーズからの旧作と、昨年リバプール・バイエニアルのために委託制作した《見えない都市:リヴァプール・トップ9》、それからアムステルダムで制作したシリーズの最新作《見えない都市:アムステルダム88番地 III》《見えない都市:海面情報漏洩者》の、計5点だ。
1) Tsui Kuang-yu "Invisible City : Liverpool Top 9", Action Video, 2006
photo courtesy of the artist
崔は、学生時代から一貫して、自ら演じるさまざまな「行為」をビデオに収めてきた。その「行為」がくせもので、延々と植物の真似をするような脱力系のものから、建物や牛など屋外のあらゆるものにぶつかって行ったり、背後から投げられる途方もないもの(スリッパ、バケツ、金槌、テレビ… ) の正体を当てるクイズを行ったり、というような自虐的なものまで、どれも一見ばかばかしい行為の繰り返しを、延々と収めているのが特徴だ。人間の力ではどうにも出来ないさまざまな事実や、誰もが当たり前だと思っている色々な慣習に対し、時に滑稽に、時に自虐的に、身体を張って表現してきた。
新作も基本的にはこの路線を踏襲しているが、 《リヴァプール・トップ9》以降の作品には、いくつかの変化がみられる。
リヴァプール作品は、かなりエンターテインメント性の高いビデオに仕上がっている。冒頭で出てくるマップも詳細で、本人の代わりに地元の有名司会者が登場し、トマソンを思わせる「街中の変なもの探し/こじつけの機能の説明」を行う。なかでも、リヴァプールの街角にデザインとして設置された石畳を、台湾の公園で年寄りを中心に人気を呼ぶ足裏マッサージ用の石畳に見立て、イギリス人のエキストラたちに靴を脱がせて真剣に足踏みさせているシーンでは、思わず声を上げて笑ってしまった。
アムステルダムで制作された2作品は、どちらも水と関係している。国土の26%以上が海抜より低い国であることから着想を得ているためだ。どちらの作品にも、再び本人が登場している。密室での不条理劇がヤン・シュワンクマイエルなどの東欧アニメーションを思わせる《アムステルダム88番地 III》は、(未見の方にはネタバレで申し訳ないが)バシャーッと水が落ちてくるというオチの付け方こそ以前の作品に通じるが、無意味な行為を作家自らが行うのではなく、コントロール不可能な状況が発生するというところに、彼がこれまでとは違う現実との接点を持ち始めている気配を感じる。
《海面情報漏洩者》の leaker は、文字通り「水を漏らす」意味と、彼が水を漏らすことで、そこが本来海面下であることが視覚化され、周囲にばれてしまう=海面情報が漏洩されてしまうという、ふたつの意味を持っている。というのも、このビデオでは、アムステルダムの街を徘徊する作家が、海抜以下の場所を通るたびに、衣服から水がざぶーっと出てくるからだ。近くを通り過ぎる人たちからも笑いを取っていたが、実際、まじめな顔をした作家歩くたびに、水がしぶきを上げて流れ出す様子は、かなりシュールである。一方で、「水が漏れる」というユニバーサルな現象を扱うことで、誰にも親しみやすい効果を得ているのもポイントだ。
2) Tsui Kuang-yu "Invisible City : Sea-level Leaker", Action Video, 2006
photo courtesy of the artist
今回の個展で感じたのは、崔の作品が、以前より圧倒的に一般にアピールする力を得てきているということだ。実際、展示されていた画廊では、ふらりと入って来た観客の笑い声が常に響いていた。崔は、リヴァプール作品での変化について、「僕の作品の方向性が変わったということではない」と言っていた。しかし、コミッションワークの制作という経験が、作家のひとつの跳躍のきっかけになったのではないかと感じた。
2007-09-02 at 10:23 午前 in ワールド・レポート | Permalink
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