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2007/05/16
SOCRATES SCULPTURE PARK
NYからライター塩崎浩子さんの5月のレポートです。
今回は、アーティストが積極的に場所作りの段階から関わっている、ユニークなパブリックアートを紹介したい。クイーンズのロングアイランド・シティー地区、イーストリバーに面した一角に「ソクラテス彫刻公園 (SOCRATES SCULPTURE PARK)」がある。イサム・ノグチのアトリエ跡に建てられたザ・ノグチ・ミュージアムのすぐ近くだ。この場所は20年ぐらい前まではゴミの不法投棄場や埋め立て地としていわば打ち捨てられた場所だったが、1986年、アーティストのマーク・ディ・スヴェロ(Mark di Suvero)を中心に地元のアーティストや住民たちが、ここに大型作品が制作できるスタジオ、展示スペース、そして地域住民のための公園を整備した。広々とした敷地に芝生が植えられ、普段は犬を散歩させる人や釣りをする人がのんびり過ごしている。
5月6日、公園設立20周年企画のひとつ「L.I.C., NYC」展(8月5日まで)が始まった。ロングアイランド・シティーを制作の拠点とする(した)イサム・ノグチやジョエル・シャピロ(Joel Shapiro)といった巨匠から若いアーティストまで12人が出品、同じくこの地区に共同アトリエを構えるアート集団Flux Factoryも参加している。
イーストリバーを挟んで対岸にマンハッタンの摩天楼を臨む公園はあちら側とは別世界。周囲には視界を遮る高いビルがなく、大きく開けた青空の下、無雑作に思えるぐらい作品が点在している。マンハッタン側へ手を振っているかのようなシャピロの彫刻や天空に向かって屹立するスヴェロの巨大な作品があるかと思えば、自由に登ったり遊んだりできる遊具のようなAmy Yoesの作品もある。観客を驚かせていたのは、廃船をまるごと利用したFlux Factoryのインスタレーションや、Jason Hackenwerthの無数の風船でできた海獣を思わせる揺れる彫刻だ。
左:Joel Shapiro《Untitled, for David》2001-2003
Courtesy of the artist and PaceWildenstein
右:左から Stephen Dean《Haystacks》2007/Kurt Lightener 《I Hauled》2007 Courtesy the artist and Clementine Gallery/Anne Deleporte《Babel-Tube》 -1370/Mark di Suveroの作品
その作品の多様さから、アーティストの層の厚さとコミュニティーの成熟ぶりがうかがえる。公共スペースをまずこしらえてパブリックアートをどこかから調達する行政主導のやり方ではなく、ソクラテス彫刻公園は、アーティストたちが制作場所も含めて一から作り上げ、作品を制作し、出来上がった作品はもちろんその過程も含めて一般公開している。また、毎年2〜6ヶ月のアーティスト・イン・レジデンスプログラムを実施しており、春と秋に開催する企画展のうち、秋の展覧会は彼ら若いアーティストに発表の機会を与えている。ここで初めて屋外展示を行ったアーティストも多い。
展覧会以外にも、野外映画上映やコンサート、ワークショップ、ヨガや太極拳教室など地域住民のための企画も充実しており、さらに地元の雇用促進の機能も果たしている。町起こし的な短期間のイベントでも一度設置して終わりの恒久展示でもなく、こうした活動はソクラテス彫刻公園で20年にも渡り地道に続けられてきた。アーティスト、地域住民そして行政が協力して、荒廃していた地域を文化的に蘇生させた好例と言えるだろう。
Words: 塩崎浩子
2007-05-16 at 08:04 午後 in ワールド・レポート | Permalink
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