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2006/01/04

ポストシアター「skinSITEs」「6 Feet Deeper」

Pt_6fd_web3_1私の度量が狭いのかもしれないと思い、昨秋は多くの人と共同で行うアートプロジェクトやワークショップにも参加するようにしていた。一方で、本でも映画でもアートでもなんでも、ひとりで受けて立つような機会も持たなくては本当には楽しくないと思っていた。1998年、ニューヨークで、演出家のマックス・シュマッハーが発足した「ポストシアター」は、劇団ではなく、メディア・アーティストの棚橋洋子らさまざまな専門性を持ったアーティストや研究者からなるグループだ。特定の劇場を持たず、ベルリン・ニューヨーク・日本とネットワークを結び、その土地でパフォーマーなどの「人」を探し「場」を探して、その場所にまつわるものや歴史などからドラマを創造する。サイトスペシフィックな映像とライブパフォーマンスの融合が生み出す空間。今回が初来日だ。

バンカートの建物の脇には椅子が並び、隣には青いビニールテントが張られていた。最初の「スキンサイトversion7:オープンアカウント」は、建物の青いドアが開き、その内側に張られたスクリーンにまたドアが投影されて開き、現実空間と映像空間の境をあいまいにするところから始まった。スクリーン(皮膜)はラテックスゴムでできており、内側からパフォーマーの姿を映し出す。ペリー提督による「侵略」に始まる横浜の歴史と旧日本郵船会社の倉庫であり博物館でもあったバンカートの場所性から端を発するテーマのもと、海原に抗い漂うパフォーマーの動きをひんやりとした蒼い外気のなかで見る。ラスト、はちきれんばかりの限界まで外側に(私たちの側)にせり出した膜の伸張と突き出されたかたちには(ちょっと予想できてしまったが)一瞬ギョッとさせられた。

続いて「6 Feet Deeper」の上演されるテントに案内される。回の字上にステージがあり、観客は外側の縁台に並ばされた。高さの同じ内側のステージに撒かれた砂漠の砂の中からパフォーマー、マーレン・シュトラックがゆっくりと身を起こしていく。砂上には、時計やカウボーイの影絵が映し出されている。アメリカ西部開拓時代の女カウボーイ、カラミティ・ジェーンを演じるシュトラックが、6フィートの鞭を振り回して影絵の馬を追う。鞭ならしのショーと物理学のマッハ理論がスピーディーに絡み合う。挑戦的で痛快な彼女の鞭鳴らし姿もさることながら、過ぎ去る放物線を目で追い、空気を叩き付けるように震わす音をただ聴いていた。小さな砂粒が観客の方にも飛んで来るが、自分も他の観客の足も案外度胸が据わっていた。

両作品ともコンセプトがしっかりしていて、筋ではないけれど物語をもほうふつとさせる。ただ、私にとってはナレーションなどで言葉を追う作業をすると忙しくなり、むしろ言語からの解釈をなるべく塞いで、映像とライブが交錯するなかで時折見せる空間に放り込まれてみたいと少し努めて傾けて見ていた。でもきっと欧米では言語での構築も必須なのだろうし、ポストシアターとしては言葉も表現の一要素として並列にあるよう考えられているんだろうと思う。

終演後にトークイベントも行われ、質疑応答も熱心に交わされた。長らくパフォーマンスを見ている観客にとっては、今の時代にむしろ真っ当に映り、若い観客にはおそらく新鮮な刺激だったのではないだろうか。私自身、アートを見始めて最初からすべてを理解できるなんてことはなかった。突きつけられ混乱させられても考えたり見続けたりすることで、少しへこたれなくなったかもしれないと思う。2つのうちどちらかは、しっかり計算されたものというよりも、多少予期せぬ事態を歓迎するような内容であってもよいかもしれないと思ったが、また受けて立ちたいとすっきりした心で思った。


2005年10月31日(月)・11月1日(火)
BankART Studio NYK 特設ステージ
インタビュー

words:白坂ゆり

2006-01-04 at 06:04 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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