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2006/01/04
ノルシュテイン映画の秘密パート2 ジャン・ヴィゴの『アタラント号』を語る
武蔵野公会堂ホールがその日の「学校」だった。ロシアのアニメーション作家ユーリ・ノルシュテイン監督が、フランスの映画監督ジャン・ヴィゴの『アタラント号』(1934年)を語るという講座。『アタラント号』は20代初めに見て以来だ。午前中に映画上映があり、午後からフィルムを止めながらの講義が始まった。
ノルシュテイン監督は「映画そのものや映画史に精通しているわけではないので、自分の考えを話していきます」と前置きした。物語は、セーヌ川を行き来する船アタラント号の船長が結婚し、老船員と子どもを同船した船での新婚生活が綴られ、パリの都会に魅せられた花嫁が船を抜け出し、やきもちを焼いた船長が船を出してしまうというすれ違いを描く。どこにでもありそうな話でそれほど起伏があるわけではないのだが、迫ってくるものがある。
ノルシュテイン監督は、詩的な風景描写や汽笛などの音について語った。ロシアの戯曲作家チェーホフが言った「冷たい心で書く」という言葉を引き、対象を突き放して描かれた表現についても語った。すべての解説の後に会場からたくさん質問があった。アニメーションを制作する若者も多かったようで、そのなかで、「私は作品に愛情を注ぎ込むので、冷たい心の意味がわからない。もう少し教えてください」というものがあった。また「キャラクターがうまくつくれない」と悩みを相談する人もあった。前者には、例えば、この登場人物を作者が気の毒に思ってそれをアピールするように描いたら、この繊細な哀しみや慈しみは現れてこないことなどを説明していた。後者には、自分を見つめることや、描くのではなく設定した人物が動き出すのを追いかける境地などが語られた。質疑応答には今日的な創作の問題が現れ、質問者が奇をてらわず率直であったために再認識できたことも多かった。
映画では、水中や水玉のエロティックなシーンももちろんだが、飲んだくれの老船員がさまざまな国で集めたおもちゃを使って、娘のような若い花嫁に劇のようなものを見せて喜ばせるシーン(若い頃あちこちの波止場でモテたと思われる)、壊れた蓄音機を回して子どもがバイオリンを弾くシーンなど、夫婦だけの関係ではないシーンが効いている。船は出て行き、きっとまた船上に洗濯物が干され、またすれ違いと和解が繰り返される。そういえば、かつて映画ははかなかったなあと帰りの電車で少し眠りながら思った。
おまけ:昼休みに井の頭公園で写真を撮りました。
words:白坂ゆり
2006-01-04 at 07:44 午後 in 展覧会レポート | Permalink
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