BankART1929オープン

「未完のスタート」

BankART1929 Yokohama(旧第一銀行)

■渋谷駅から横浜中華街までを結ぶみなとみらい線ができて、横浜エリアが周遊しやすくなった。そんな最中、横浜市が推進する歴史的建造物を活用した文化芸術創造の実験プログラム「BankART1929」が3月6日にオープンした。昔ながらの横浜情緒が残る馬車道商店街の近くにある旧第一銀行と旧富士銀行を再生してできたアートスペース。その名は、どちらも1929年に建てられたことに由来する。運営母体は、横浜市主催の公募で選ばれた、小劇場を運営し、パフォーミングアーツを中心とした「STスポット横浜」とアーティストのPHスタジオ・池田修を代表とした「YCCCプロジェクト」の2団体が合体して新たに発足された(館長はSTの岡崎松恵)。

■BankART(バンカート)は、実は未完のままスタートした。ワークショップを通じて備品を制作するなど、センターができていく過程を公開するなかで、市民やアーティストや専門家などさまざまな人が訪れ、参加し、この建物の活用方法を皆で提案し討議を通じて実行していこうとしている。オープン前からすでに企画の持ち込みやレジデンスの申し込みなどが毎日のようにあると聞いている。

■この運営方法が決断されたひとつには、現実的な理由がある。それは、運営母体の決定と準備にかけた期間の短さだ。2002年11月に「文化芸術・観光振興による都心部活性化検討委員会」が設置。旧第一銀行と旧富士銀行の活用は、文化芸術創造都市＜クリエイティブシティ・ヨコハマ＞の形成に向けて、馬車道周辺を芸術の拠点とする「クリエイティブ・コア」構想の中核事業となる。2003年4,5月で予算化され、10/24に運営団体の公募を告知、11/14〜28応募、24団体中7団体が12/22二次審査の末、その夜に連絡があり24日に2団体が初顔合わせ。もともとは各団体で運営プランを立てて応募しているため、擦り合わせから始めなくてはならなかった。

■ともあれ、公開ミーティングやレクチャーをはじめ、展示やダンス公演などプログラムが目白押しだ。BankART1929 YOKOHAMA(旧第一銀行)の1階のカフェ空間には、杉浦隆夫のオブジェが展示されている。BankART1929馬車道(旧富士銀行)の金庫室では楢橋朝子の写真展示とスライド上映。こちらはうまくハマっている。1階では、椅子をつくるワークショップやトークが行われ、夜はパブとなる。美術ジャーナリストの村田真校長率いる「BankARTスクール」も行われる。

■旧第一銀行の方は建築当時を再現しているが、空間が真新しくできあがりすぎでもある。運営母体を決めてから空間をつくるといった構想はなかったようだ。というのもひとつには、この建物は横浜市による2年間の借り上げで、見通しが鮮明ではないからでもある。その先は事業の評価次第だというが、運営団体としても目標が持ちづらいのではないか。展覧会を企画運営するだけでも2年間は短い。それでも2年の先があれば、それを見越した環境づくりができる。例えばカフェの食を充実させたくても、水回り工事をした場合、2年後にそれを使わないとなったら、現状復帰して返さないといけない可能性が大きいという。 私個人の意見では、そうではあっても、カフェやパブは専門の事業と提携したほうが良い気がするのだが。

■とはいえ「2年ならここまでだろう」というよりも「2年でこんなにできた」という実績をつくってほしいとも思う。考え方ややり方の違う2団体が新たなやりかたをつくり出してほしいし、ほかの都市の文化政策にも影響を及ぼすだろうからだ。「空間を開けた(点を打った)ことで、いろいろなことが見えてきた。4月には、この先の展望に向け、じっくり企画し準備する時間をつくりたい」という池田。やはり「BankART」が何をやりたくて、アート(あるいは文化の)全体の中でどのような位置付けをもっていくのかが私は見たいと思う。

BankART1929 オープン
杉浦隆夫展
2004年3月6日(土)〜4月4日(日)
BankART1929ホール・カフェ
神奈川県横浜市中区本町6-50-1
(横浜みなとみらい線馬車道駅1b出口すぐ)
11:00〜20:00　無休
TEL 045-663-2812
楢橋朝子展
2004年3月6日(土)〜4月4日(日)
BankART1929 馬車道ホール 金庫室
神奈川県横浜市中区本町4-44
(横浜みなとみらい線馬車道駅5出口すぐ)
11:00〜22:00　無休
TEL 045-663-4677

*3/12　珍しいキノコ舞踊団、3/27 矢内原美邦・大野慶人振付作品 連続上演など詳細はホームページへ

words:白坂ゆり

/BankART1929ホール・カフェ
　杉浦隆夫インスタレーション