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2004/03/05

手塚愛子展

「思考をほぐす」

201_03_1「空白と充満を同時にぶら下げる」のうち1点 油彩 2004


■昨年開かれたグループ展ではじめてみた手塚の作品は、ゴブラン織の布の、複雑な糸の交差のなかから、同じ白色の糸だけを引き抜き、布から流れるようなラインをつくって1つに束ねたものだった。作業は考え付けばだれにでもできることかもしれない。だが、たくさんの色の糸を織って複雑な色や模様をつくりだしたものから、布の一部となった1本の糸を引き抜いて見せるという、それだけの行為がとても新鮮だった。

■私たちは、日常的には表面の色やかたちを目にしている。しかし、その色やかたちが出来上がる過程や、成り立ちを忘れてしまうことが私たちにはよくある。作品を生み出す発想や、作業のひとつひとつの段階の結果できたものは1つの生命体にも似ている。一旦できあがったものを破壊することなく、解体する。緑、赤、青、黒、黄の5色の糸を抜き出した作品「long long longing ,and disorganization」では、楕円形のパネルに張ったをゴブラン織の布を6個横並びにして、隣合わせた布から共通する色を抜き取った。

■ペインティングやドゥローイングも合わせて展示した今回の個展で、複数の作品を観てゆくと、彼女が表現したかったことが前よりいっそう理解しやすくなる。紡がれたものを、ほぐす作業や、色の重なりによって完成した色を、もう一度解いてみることなど、具体的な展開によって、装飾的とも思える物質がコンセプチュアルなものに見えてくる。

■湧きたち、重なり合うなかで、浮き上がらせたものを束ねてゆくと、そこから更にまた新たなものが生まれてゆく。大学院博士後期過程に学ぶ手塚は試行錯誤を繰り返しながら、浮んでくるイメージを目のまえに作り出そうと努める。そして、そこに出来上がったものが、さらに私たち観る者の思考のなかで、次なるものを想像させる。それは手塚が感じたことと似ているかもしれないし、まったく異なるものかもしれない。思考を解きほぐし、作品は循環してゆく。


手塚愛子展
2004年3月5日(金)〜4月3日(土)
アートコート ギャラリー
大阪市北区天満橋1-8-5 OAPアートコート1F
(JR環状線「桜ノ宮駅」西口より8分
地下鉄「南森町」・JR東西線「大阪天満宮」より10分)
12:00〜18:00(水曜は〜20:00)
日・月・祝日休
入場無料
Tel.06-6354-5444

words:原久子

201_03_2「long long longing ,and disorganization」
引き抜いた縦糸、ゴブラン織、パネル 2004

201_03_3縦糸を引き抜く 解体すること、共有すること」
引き抜いた縦糸、ゴブラン織、パネル 2004

201_03_4「go home」
キャンバスに刺繍、毛糸 1997

201_03_5「透明な果実を食べるために」
石膏地に油彩ほか (200号) 2002

201_03_6「レースでふたをする」
油彩 2003

2004-03-05 at 01:02 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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