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2004/02/06

Vol.54 井上信太(Shinta Inoue)

「いろんな人と関わりながら表現していきたい」

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数年前のある雨の日、バスの中からふと窓の外を見ると美術館の前に羊...!?思わず下車して見たものは、美術館の展示室に解放された羊たちと、壁に大きく映し出された内モンゴル、中国でのプロジェクトの記録映像。その前後にも作品を見る機会はあったが、偶然出会ったこの展覧会は特に印象に残っていた。パネルに描いた羊たちを、街の中や草原などに設置してゆく「羊飼いプロジェクト」を1998年から行っている井上信太さん。「あくまで平面の表現であることにこだわりを持っている」というアーティストは、見る人とのコミュニケーションを大切にしている。

■まず「羊飼いプロジェクト」についてのことを。

この活動は、行く場所ごとに出会いがあります。平面という意味でやり通すのですが、コミュニケーション・アートと言えばいいのかな。98年の、大阪府主催のART-EX (アーティスト・イン・レジデンス・プログラム)に選ばれてドイツへ行きました。ちょうどその頃、BSのテレビでライン川をゆったりと下っていく番組を見たんです。その映像には川の向こうに羊飼いが映っていて、その後ろに羊たちの群れがいっぱい連なってた。それを見たら、わあ!って気持ちが盛り上がって(笑)。それまで羊に関しては、特別な思いはなかったんですけど、群れとか集合体という感じで平面にして、街の中でそれを表現したら面白いんじゃないかと思いました。

そうそう、どうやって平面の羊たちが生まれたかお話しましょう。僕は平面作品の制作をしているのですが、ある時、絵を描いてる途中で、画面をちょっとだけ汚しちゃったんです。どうしてもその汚れは許せなくて。でも絵は気に入ってるし、どうしようかと悩んだ末に、思いきって画面を切り取ってみたんです。そしたら、それが何とも良くて。おお、これはオモシロイじゃないか!ということで、アイディアが生まれました。

■ART-EXでのドイツ滞在はいかがでしたか?

最初は羊をどうやって表現しようかと思いながら、ベニヤを買いに行ったり、アーティストの住むところで展示をしたりして楽しんでいました。せっかくドイツに来たし、実際に羊飼いに会いたい!とドイツの文化局に問い合わせたら、デュッセルドルフの羊飼いを紹介すると言われました。「羊飼い協同組合」ってのがあって(笑)。そこで紹介されて伺ったのが、その地域でも一番気難しい方だったみたいで...。まずは作品を見せようと、本物の羊の群れの中に、平面の羊達を置いたんですが、本物の羊達が逃げてしまって大変でした。でも、その羊飼いのご家族みんなで撮影がうまくいくよう手伝って下さった。羊飼い協同組合をはじめ、そんな出会いは面白かったですね。

■羊たちは写真に撮られるんですね。

そう。羊たちを「放牧」して写真撮影をしています。今はきちんとした支えで平面の羊を立ててますが、最初は現地調達が基本で、木の枝などで支えてたんです。これの面白いところは風が吹くと倒れる。ライン川沿いなんかでやってると風で次々に倒れていくから、最初は遠巻きに見ていた人達もだんだん手伝ってくれるんです。カメラがあるから、みんな写真を撮りたいんだとわかるんですね。それに、どうやらこの行為は、危害を加えないと安心するようです。次第にコミュニケーションが生まれてきて、「こりゃあ一体何だい?」って尋ねられ、羊だと言うと「いやあ、ブタだろう」とか...。そんなやりとりの中で、羊にまつわる土地の伝説とか、民話とかを話してくれたりします。自分の表現方法は、このドイツ滞在で実験しながらできあがってきました。

■ひっくりかえった羊たちの写真がありますが?

逆さまの羊は他にもありますが、ドイツで移動していて、いつのまにか視界一面濃い霧に包まれた「黒い森」という地帯に入ってしまった時に撮った写真があります。こんな場所で羊を逆さまにしたら面白いんじゃないかと思って特に意味はなかったんですけど。そしたら、その後出会ったドイツの人が「知ってたかい?ここは魔女が『全ての生き物を逆さまにしてやる!』って言った森だよ」って、魔女狩りがあった時代の「黒い森」の伝説を教えてくれたんです。そんなエピソードを土地の人に聞くだけでも旅の面白さを感じます。何てことないかもしれないけど、活動もいろんな出会いに関連づけていくと拡がっていくんじゃないかって思いますね。

■地域での交流を大事にしたいとおっしゃってましたね。

去年は北海道の小学校を訪れてワークショップもやったのですが、とても楽しかった。今住んでいるのは人口も少ない小さな町で、農業や町家づくりの町並みを大事にしているところでもあり、エコタウンでもあります。僕は子どもたちの絵画教室もやっているのですが、地域の人との交流の中に、作家である僕らの役割や、美術に関わる人間だからこそできる提案があると思うんです。例えばここは、大規模な花火大会が開催されるのでも有名で、そこでの空間づくりの提案もするつもりです。平面へのこだわりは誰にも負けないけど、平面の表現の中で、どう空間に広げていくかを重要視してて、それを考えていると、街自体も気になってきます。アートワークにプラスして地域との関わりも大事にしながら、自分の構想も膨らましていきたいです。それに、いろんな人と関わりたい気持ちがあります。海外では土地のフェスティバルなどに絡んだ活動をしていきたい。

■中国でのプロジェクトもありますね。

中国での活動は、天安門にしても撮影不可能だったりという厳しさがあって、難しかったです。最終的には、とても小さい羊たちを並べてアニメーション仕立ての撮影をしました。やっぱり何やってるんだろう?と人々が集まってくるのですが、それは結構許してもらえた。こいつは大丈夫だなって感じで(笑)。最初に行ったドイツでは、地図を片手に全く知らない面白い場所を目指して動いていたんですが、今度はもっと計画的にツアーしたいと考えています。観光ガイドブックに載っているようなシンボリックな場所で、しかもガイドブックに載っているような構図で羊を置きたいですね。ロマンチック街道なんかで撮影したい(笑)。これからもずっと世界中を巡りながら表現していきたいなと思います。

■将来的には舞台での平面作品の発表をしたいとのことでしたが。

そう、僕は和太鼓の活動もやっていますが、音楽的でライブ的な感覚を大事にしたいんです。舞台空間のステージとお客さんとの距離感のように、直に作品を感じてもらえるような平面を目指していて、空間をひとつのキャンバスだと思って描いてます。将来的には、美術館やギャラリー空間ではなく、舞台空間で平面だけの表現をやってみたいです。音響や照明などの舞台美術が素晴らしい、2時間くらいのステージとか。劇場自体がキャンバスになっているような「劇場での展覧会」です。それはずっと先のことになると思いますが。映画のワンシーンにも物語があって、泣いてしまうように、最終的には、一枚の作品の中にある線の、一本の重みを表現したいですね。

■今年開催予定の「京都アートマップ」での出品について教えてください。

いつもはあまりタイトルを決めないで「羊飼いプロジェクト」ということで活動しているんですけど。今回は「羊画報」というプロジェクト名をつけました。羊たちは、ギャラリーだけではなくて、会場の近くの古本屋さんとか、カフェギャラリーとか雑居ビルにも置く予定です。アートマップならぬ「羊マップ」ですね。それから、本を作りたいと思ってます。その本が「羊画報」!いろんな人達の枕元に置いて欲しいです。寝る前に羊を数えるように(笑)。本もひとつの平面だと思っています。内容はまだ構想中なんですけど、羊にまつわるエトセトラ....ということでどうぞお楽しみに!

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words:酒井千穂


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ドイツプロジェクト(1998)

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ドイツプロジェクト(1998)

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北海道プロジェクト(2003)

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北海道プロジェクト(2003)

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中国プロジェクト(2001)

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中国プロジェクト(2001)

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中国プロジェクト(2001)

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京都市美術館開館70周年記念
「羊飼いプロジェクト2003」
(京都市美術館)

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京都市美術館開館70周年記念
「羊飼いプロジェクト2003」
(京都市美術館)

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京都市美術館開館70周年記念
「羊飼いプロジェクト2003」
(京都市美術館)


井上信太(Shinta Inoue)

1967年 大阪府生まれ
1991年 京都精華大学美術学部ビジュアルコミュニケーションデザイン科卒業
1992年~
1994年 和太鼓集団「和太鼓一路」のメンバー(和太鼓奏者としてオランダを拠点にドイツ・ベルギー・フランス・デンマーク等、約100箇所のヨーロッパ劇場公演に参加。その後、イギリス放浪、帰国
1998年 大阪府主催のART-EX 芸術家交流事業(アーティスト・イン・レジデンス・プログラム)にてドイツ・デュッセルドルフ、約三ヵ月滞在、個展
2001年 中国、内蒙古、北京にて映像作家前田真二郎と羊飼いプロジェクト2001を制作
 
個展
1996年 現代博物館(ギャラリーすずき/京都)
1998年 Projekt eines Schafers(Atelier am Eck-Salzmanbau/デュッセルドルフ)
羊飼いプロジェクト1999(関西ドイツ文化センター/大阪)
1999年 羊飼いプロジェクト1999(キリンプラザ大阪/大阪)
2001年 ONE SCENE with 前田真二郎/映像(京都市美術館・大陳列室/京都)
2002年 Travelling アートはうごく・はしる!:現代美術編(京都芸術センター北ギャラリー、他/京都)
第29回明倫茶会 羊庵茶室(和室・明倫/京都芸術センター/京都)
2003年 京都市美術館開館70周年記念 羊飼いプロジェクト2003(京都市美術館/京都)
 
主なグル-プ展
1997年 1ダ-スの水槽 展(ガラリアフィナルテ/名古屋)
ARTISTS FILE(愛知芸術文化ホール/名古屋)
情報移動現代美術(名古屋市民ギャラリー/名古屋)
大阪トリエンナーレ1997 版画(マイドーム大阪/大阪)
1998年 31th Painting ob japanese (Gallery 21/バングラティシュ)
1999年 ~Radiant Occurrence~放射する出来事(名古屋芸術大学Gallery BE/名古屋)
2000年 新鋭美術選抜展(京都市美術館/京都)
ワールドワイドネットワークアート2000(京都精華大学他3会場/京都他)
プラモ大作戦(ZONE GALLERY/名古屋)
2001年 「Stay with art/眺めの良い部屋」with 前田真二郎/映像 SHEPHERD'ROOM (HOTEL T'POINT/大阪)
2002年 京都クリエイターズ・ミーティング2(京都芸術センター/京都)
ワールドワイドネットワークアート日韓交流2002(京都精華大学IMA・ソウル・福井)
2003年 クンストヘイゲン・十勝アートフェスティバル(北海道/帯広)
北海道 帯広市立森の里小学校にてワークショップ「大きな洞窟」、羊飼い式茶式」(全学年対象)などワークショップ多数。

2004-02-06 at 08:44 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink

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