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2003/12/20

奈良美智展

「大阪の友だち」


art196_03_1pre-open今日の1枚


■約10日にわたる滞在制作のため、画材やお気に入りの小物たちをクルマに載せて奈良美智が中之島(大阪)へやってきた。今回の展覧会をいっしょに進めてゆくgraf のスタッフによって、あらかじめ会場に作られたS、M、Lの3つの部屋。「M」は奈良自身がアトリエとして使う部屋だ。プレ・オープン期間中、毎日ここに通っては絵を描き、grafのスタッフや来客と話し込む奈良の姿を見かけた。

■主催者の案内には、「プレ・オープン期間は公開制作ではございませんのであらかじめご了承下さい」と明記されていた。3つの部屋とカフェスペースとの間に壁がたち、アフガニスタンでの子どものショットなど、過去20年くらいの間に奈良が撮った写真をおさめたはじめての写真集『the good, the bad, the average…and unique』の色校正用紙が貼られている。壁の向こうにあるアトリエで何を描いているのかは、扉の部分に貼り出された「今日の一枚」が毎日取り替えられ、そこで観ることができた。時折コーヒーを飲むために扉の向こうからカフェに出てくる彼の姿は、日毎に日常の風景になっていった。

■ギャラリーの隣にある工房でこの展覧会のために、家具や空間設計等のデザイン・製造にかかわるgrafオリジナルのソファセットのミニ版が作られた。「S」の部屋は120cmの子どもの背丈を想定して何もかもが作られている。お尻が小さければ大人だって座れる。でもその様子はまるで巨人が普通の人の部屋を訪れたかのようで滑稽だ。壁にはさまざまな国で撮った子どもたちのポートレイトが並ぶ。これらは子どもの目線の高さで展示されている。

■アトリエである「M」は等身大の部屋ということになる。机のうえや壁には、薄汚れてくたびれたヌイグルミや小さな人形、いろんな国のビール瓶などがあった。そのなかで目に留まった1枚に[I NEVER FORGET YOU]と書いた文字の下、ラムズフェルド長官の似顔絵があった。絵を描いているときと同様にいつもロックがかかっているM 部屋には、アーティストがいままでここにいたかのようにコーヒーを飲み干したあとのカップもある。

■奈良が撮った107枚の写真を大きな壁全面に投影、スライドショーの状態にしているのがLの部屋。スクリーンの前のLargeサイズにつくられた椅子は、飛び乗るように腰かけねばならず、大人でも脚はぶらぶら地につかないままで小さな子どもになってしまったようだ。ゆっくりと変化する画像を観てゆく観客の滞在時間はかなり長い。

■会場入口の壁のS.M.L.の透明アクリルの文字型のなかと、M部屋の横にあるピースマークのなかには奈良の作品をフェルトなどで作った人形が入っている。ファンの人たちの手作りでそれぞれのキャラクターが3サイズ作って送られてきていた。ファンには小学生もいる。日本中からそして海外からも届いていた。一針ずつに心のこもったこれらの人形も作品の一部となった。

■そしてS.M.L.の3つの部屋をつなぐ壁には紙にプリントした奈良の写真とともに『YNのはなし』という澤文也が書いた物語がある。感受性の鋭いYNは、日々の暮らしのなかでいろんな経験をしてゆく話だ。この展覧会は3つの部屋とそれぞれを構成する要素だけではなく、たくさんの友情から出来上がっている。普段はひとりで制作するアーティストは、grafとの共生からこの展覧会を作り上げた。grafも個人の集まりで、決してみんながいつも同じ方向を見ているわけではないだろう。寂しがりやなんだけど、孤独が好きなアーティストはそんな彼らといっしょに模索しながら、最終的には自分を追い求める。

■いまとなってはもう記憶のなかにしか残っていないが、プレ・オープン最後の日、壁全体に「今日の1枚」が体当りで描かれていたことが忘れられない。壁の上はいま地球上で起こっている戦争他に対する憤りが爆発したようなメッセージに溢れていた。正面の壁のピースマークに平和への願いがこめられている。きっと奈良にとっても忘れられない10日間だったに違いない。

写真集『the good, the bad, the average…and unique

奈良美智展「S.M.L.」
2003年12月20日(土)~2004年2月1日(日)
プレ・オープン:2003年12月10日~12月18日
graf media gm
大阪市北区中之島4-1-18
12:00~20:00
第1・3月曜日定休
入場無料
TEL 06-6459-2082
[email protected]


art196_03_2工房にて 撮影:永野雅子


art196_03_3Sの屋根につける看板制作中 撮影:永野雅子


art196_03_4pre-open最終日の壁


art196_03_5pre-openの壁がとりはらわれ、全貌があらわれた。「YNのはなし」を読みふける人たちでいつも壁のまえにも人がいっぱい。
撮影:永野雅子


art196_03_6S部屋


art196_03_7S部屋内部


art196_03_8M部屋内部 ここで10日間、奈良が制作していた


art196_03_9L部屋


2003-12-20 at 08:29 午後 | Permalink

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