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2003/12/08

クォン・ヨンジョン展

「詩のなかに見出された世界」


art195_03_1「最後」


■クォン・ヨンジョンはソウルを拠点に活動する27歳の作家で、今回が初の個展となる。展覧会のサブタイトルにも「A tribute to 李箱(イ・サン)」とあるが、展示されているのは李箱に捧げる写真作品である。李箱の詩作をクォンが写真によって視覚化するかたちで展開したものだ。会場には、朗読した詩が流れていて、文字(原文・日本語)で読むことができる。

■高校時代の教科書に載っていた「李箱」の詩がずっとクォンの心に留まっていたのだという。半世紀以上まえに28歳でこの世を去った詩人・李箱は、日本で学んだ経験がある。詩の原文は日本語だが、形式にとらわれず、内容もリズムもとても現代的なものだ。残された言葉を、一つ一つ噛み砕くように解釈し、時を越えて、李が詩を書いたときと同じ世代のクォンがそこから新たな作品をつくりだした。

■リンゴが大地に転がっているだけの構図なのだが、非常に印象的な作品『最後』は同名の詩に対して作られたものだ。詩をそのまま引用すると「林檎一個ガ墜ちた。/地球は壊れる程迄痛んだ。/最後。/最早如何なる精神も發芽しない。」とある。写真作品のほうを先に見た筆者にとって、この詩を読むことで、乾いたリンゴが、それまで目のまえにあったリンゴよりずっしりと重いものに一変した。

■『鏡』という詩に「鏡のせいで私は鏡の中の私に触れることができないのだけれど」という一節がある。鏡と向き合いながら、自己の内面を見つめようとする若者の葛藤が伝わってくる。そして、作品写真と併せてみることで、詩と写真との間にもいつしか対話が生まれてきているように感じられた。

■一見難解な詩だが、その言葉に触発された若い作家の視線によって瑞々しいビジュアルを得た。朗読は韓国語であったため、内容がわからなかった。そして、正直な感想としては、余分な要素だったようにも思われた。先にまず写真をじっくり見てから、詩を読むもよし、作品と詩を交互に見ながら展覧会をみてゆくもよし、といった感じだ。

Kwon Yeon Jung(クォン・ヨンジョン)展
「A tribute to 李箱(イ・サン)」
2003年12月8日(月)~20日(土)
ギルドギャラリー
大阪市中央区北久宝寺町3-4-1 マーメイドビル4F
12:00~19:00
日曜休
入場無料
TEL 06-6244-0044

art195_03_2「鏡」(3点組のうち1点)


art195_03_3「鏡」


art195_03_4建築無限六面角體 『AU MAGASIN DE NOUVEAUTES』」(3点組のうち1点)思考の展開のなかに、建築を学んだ経験があるという李箱の素地が影響しているようにも見える。空間性をもった展開が2次元の写真のなかに表れている


art195_03_5「建築無限六面角體 『AU MAGASIN DE NOUVEAUTES』」(3点組のうち1点)


art195_03_6「建築無限六面角體 『AU MAGASIN DE NOUVEAUTES』」(3点組のうち1点)


art195_03_7三次角設計圖 『線に関する覺書 1』」

2003-12-08 at 08:46 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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