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2003/12/13

あるサラリーマン・コレクションの軌跡~戦後日本美術の場所~

「ゆるぎない蒐集浪漫」


art195_02_1井上長三郎作品群。右から「牛」「柿」「シルクハット」


■ここではMr.サラリーマン氏をS氏と呼ぶことにする。S氏は知る人ぞ知る美術資料の収集研究家である。多くの学芸員や記者が作家研究で資料閲覧にS氏のところへ通い、その度に快く協力し、時にはアドバイスを与えてきた。かくゆう私も最初に訪れたのは資料目的だったと思う。それ以来何度となくS氏宅へお邪魔しているが、そのたびに色々な作品を見せてもらい、買ったきっかけや作家についての話を聞かせてもらった。

■S氏が作品を収集しはじめたのはちょうど私が生まれた頃のこと。1点の絵画をプレゼントされたことがこの道への扉を開けてしまったそう。そして画廊巡りはライフスタイルになり、心に響いた作品を買い求めてきた。「僕はね、名前じゃなくて作品で買ってるんだよ」それこそデビューしたばかりの若手作家から知られざる物故作家、骨董までジャンルも作風も幅広く、氏のしなやかなコレクター魂に感心することしきりだった。

■美術館活動を問い直す展覧会として企画されたという同展。主催者側に深読みすべき意図はあるようだが、個人コレクターと作品の関わりが公共の場に出ることで鑑賞者側に見えてくる大切なものがある。それはS氏の美術に対する愛情と作家支援の奥ゆかしい姿勢である。

■展示やカタログの構成は一体どんなカテゴリーで分けたのかと思いきや、単純明快な五十音順だった。最初は写真家・安斎重男からはじまりラストはラインハルト・サビエで締める。基本的に1作家1点だが、2~4点出品されている作家もある。分類する必要性のない個の集積であり、オートマティックな並びゆえ導線にとらわれれることもない。ときおり添えられているS氏の作品エピソードが興味深い。

■「サインがないけどあの作家に間違いない。掘り出し物だったよ!」と、S氏が以前嬉しそうに語っていたことがある。彼のおかげで日の目を見る作品も少なくないのだ。コレクションが1000点もあるとは正直驚いたが、そのような知られざる作品も含めて全134点がピックアップされている。

あるサラリーマン・コレクションの軌跡
~戦後日本美術の場所~
2003年12月13日(土)~2004年2月1日(日)
三鷹市美術ギャラリー
東京都三鷹市下連雀3-35-1 CORAL5階
(JR中央線・総武線「三鷹」駅南口より徒歩1分)
10:00~20:00
月・12/29~1/5休
入場一般500円、中高大生300円、
65歳以上・小学生無料
TEL.0422-79-0033

●コレクター氏講演会「私とコレクション」
2004年1月25日(日)14:00~
三鷹市芸術文化センターB1アートスタジオ
定員70名(要電話予約 0422-47-5122)
参加無料


art195_02_2展示作品の中で最も大作。
黒崎俊雄「無題」


art195_02_3川俣正「ベニスビエンナーレのためのPlan」
4点


art195_02_4和田賢一「ATOMIC BOMB」


art195_02_5左から塩川文麟「月下之瀧」「竹叢月出図」、
八木岡春山「雨後」


art195_02_6上から中川幸夫「花坊主」「闡(ひらく)」
「魔の山」、「花楽」(左)、
伝・藤田嗣治「ロベール・デスノス」(右)


2003-12-13 at 08:52 午後 | Permalink

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