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2003/11/01

牧谷光恵展

「測定彼女」


art195_01_1「無題(ほろ酔い)」2003


■正月に実家に帰ると必ずアルバムを見るようになった。子供の頃、河川敷やジャングルジムの上で自分が見ていたものをたどりたいからだ。子供の頃の写真があるというだけでも、親の愛情を知ってありがたいのだが、カメラ(内側)との距離とその向こう(外側)との距離を自分がどんな風に測っていたのか。あるいはそちら側から自分はどう見られていたのかについて確認してみたい。ノスタルジーとは別のものだ。

■牧谷光恵は、アルバムの中にいる過去の自分をドローイングに描いたり、スチレンペーパーを使ってレリーフ状の作品にしたりする。それは「自分の尺度で世界を測り直す作業」なんだと以前に聞いた。現実の見え方、つまり認識というのは人によって違って、そのズレも含めて検証してみるということだ。

■私の場合だが、取材活動をしていて複数に裏を取る(話をするなど)と、その人がどの位置から何を見て、どう判断しているかによって、現実の見え方が違うことがわかる。まだあまりうまくはできないが、そうしてサッカーボールのような多面体にして、ぎゅっと平面にしないと近付かないなと今は思う。それでもどう本当とされるところを記述するか判断しかねる場合もあるが、最後に根拠にするしかないのは「自分が見たもの」なのだ。絶対的自信はないが、そうするしかないときがある。

■牧谷のドローイングを見ていると、そうした「間の眼」や距離を感じる。測っているということがわかる。それはナルシズムとか天然とは違う。レリーフをつくるときは、文様とともに、コンピュータでイメージを何層かに文節し、それを等高線の地形図のように構造化している。そうやって地層のようにしないと見えない感じが、今はあるんだろう。

■そうして緻密に計算されてできてくる立体が、なのにとても屈託がなくてつい笑ってしまうんである。観客を見ていても、だいたい顔がほころんでいる。「なんでこんなことしているの」「なんでこんなふうになるの」と思うんだろう。

■技術的にもつかめてきていて、しかしそうすると工芸やデザインとどう違うのかという、前回は思わなかったことが出てきてもいる。それでも、彼女は無意識を測りにいって、何かつかんで、開放される気もする。いつか、この厚みをぎゅっと縮めるときが来るのかもしれない。


プロジェクトN15 牧谷光恵展
2003年11月1日(土)〜2004年1月25日(日)
東京オペラシティアートギャラリー 4F コリドール
東京都新宿区西新宿3-20-2
(初台駅より直結)
12:00〜20:00
(金・土曜は21:00まで。入館は閉館の30分前まで)
月曜休(祝日の場合は開館し、翌日休)、12/29〜1/5休
料金:アートギャラリー入場料に含まれる
TEL 03-5353-0756


art195_01_2部分


art195_01_3「マッシュルームの山」2003 部分


art195_01_4展示風景 手前は「新大陸発見」シリーズ


art195_01_5左から「新大陸発見—牧ヶ谷」2002
「新大陸発見—牧ヶキャニオン」2003


art195_01_6「牧ファミリー」より 2003


art195_01_7「サルメガネと菊唐草」2003

2003-11-01 at 08:46 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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