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2003/11/14
アジア・アート・アーカイヴと香港のアート・サポート事情
AAA 香港オフィスの日常の風景。
ビジター用の検索用コンピューターと、研究用デスク
■香港に、アジア・アート・アーカイヴ(以下AAA)が正式にオープンして、もうすぐ8ヶ月が経つ。構想3年、その目標はアジアの現代アート資料の収集と編纂、それを主に英語でデータベース化し、国際的な舞台に乗せていくことにある。カバーする地域はアジア全域という壮大なものであり、これまでのところ主に中国語圏の資料を収集してきた。最近日本のリサーチにも着手したので、国内でAAAの名前を聞くことも、今後確実に増えていくに違いない。
■私がAAAの存在を知ったのは、私がこの組織に入る半年ほど前、2002年春のことだ。第二回福岡トリエンナーレ、それに続く光州ビエンナーレのオープニングで、若い女性がひとり熱心にビデオカメラをまわしていた。それがディレクターのクレア・シューだった。彼女は今も、山積する事務的作業と資金集めのあいまをぬって、世界中の展覧会に出かけては記録を取り、精力的にインタビューを行うという生活を続けている。そうやって、じかに多くの人と会って語りあうことは、AAAにとって核心的な活動であると言っていい。というのも、AAAでは、アーティストや研究者たちとのパーソナルなつながりを最も大切にしているからだ。これは一方で偏りを生じる危険性をはらんでいるが、密な協力関係を築くためのネットワークづくりには欠かせないものだ。
■非営利組織であるAAAの主な財源は、香港芸術発展局からの支援、そしてイギリス統治時代から競馬が盛んな香港ならではのジャッキー・クラブ、そして企業の支援である。もうひとつ欠かせないのが、個人のスポンサーによるサポートだ。特に彼らからの資金が一気に集まるのが、一年に一度、香港中のお金持ち百数十名を招いてのチャリティ・ディナーである。会場は、知る人ぞ知る会員制高級レストラン、チャイナ・クラブ。インテリアは20世紀初の上海風コロニアル、中には所狭しと中国の現代美術のコレクションが並ぶ。有名なコレクターであり香港財界の主要人物であるこのレストランのオーナーも、AAAスポンサーのひとりである。ちなみにパーティの席も有料であり、席のチケットを買うところからすでに寄付が始まっていると言える。
■このディナーの最大の特色は、主にAAAの活動を支持するアーティストたちからの寄付で成り立つアートワークのオークションだろう。寄付でまかなうとは言っても、中国を代表する現代アーティスト徐冰(シュ・ビン)や谷文達(グー・ウェンダー)なども作品を寄せる本格的なものだ。全40エントリーのこのオークションは、ライブとサイレントの二部に分かれており、ゲストはあらかじめカタログで、カラー図版、作品データ、評定額などをチェックしたうえで、ライブ・オークションが始まるのを待つか、あるいはそれぞれお目当ての作品のカードに名前と希望価格を書き込む方式のサイレント・オークションのコーナーへと足を運ぶ。誰もが作品を買いたくてうずうずしている、それが見ていて嬉しくなるひとときだった。司会も参加者も大騒ぎのライブ・オークションでは、ほとんどが評定額の数割増で落札し、今回のディナーも大成功を収めた。
■台湾駐在のリサーチャーである私は、通常なら香港本部が企画する様々なフォーラム、ワークショップなどのイベントには殆ど関わらないのだが、今回のこのディナーには、たまたま別件で香港にいたため、参加する機会を得た。未知の世界であるその欧米型の資金集めの現場に一種のカルチャー・ショックを覚 えつつ、毎年行われるこのイベントが、確実に香港をはじめアジアの現代アートを支えるコレクターを産む母体となっていであろうことを予感した夜だった。
words : 岩切みお
People's Republic of China -19 December 2003 relies
だんだん充実してきている書庫。
本の種類別、国別に並べられている
リーディング・エリア。ゆったりしたソファが気持ちよい
パーティーにて。ディレクター、クレア・シューの挨拶
ライブ・オークション風景。
ゲストが手にしている黄色い冊子がカタログ。
表紙にはエントリー作品のひとつ、徐冰の作品
Art for the People の文字が使われている。
ディナー中盤では、中国の伝統的な秘技である
マスク・パフォーマンス(変臉)に大喝采
Photos courtesy Asia Art Archive
ゲストリポーター: 岩切みお
(美術ライター/アジア・アート・アーカイヴ台湾担当リサーチャー)
1971年福岡生まれ。同志社大学にて芸術学修士取得。2000年より台湾現代美術(史)を研究、2002年より香港の研究機関アジア・アート・アーカイヴに所属。台北在住。
2003-11-14 at 09:18 午後 in ワールド・レポート | Permalink
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