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2003/10/28
旅ー「ここではないどこか」を生きるための10のレッスン
「旅ごころ」
小野博「When Tomorrow comes」2003年
■この9月、ある雑誌の原稿を数本書いていて、自分は風来坊に憧れているんだなあと思うことがあった。とはいえ実際の旅は少ない。美術展を巡りながら街を眺め、本や音楽やスポーツを見ながらその都度、こことは違う時空を旅して退屈しない感じもある。子供の頃は引っ越しが多く、いつも新しい土地にいて、移動にまつわる面倒さを感じてもいる。
■いながらにして、こことは違うどこかをイメージすること。インターネットでイメージを取り出すのとも違い、この展覧会では、見る者の入り込み方いかんで、さまざまな時空を旅することができる。瀧口修造が海外に旅立つ友人に送った「リバティ・パスポート」の周囲に、安井仲治のユダヤ移民の写真が展示されている。ここで、自分の自由は、さまざまな自由を求める人間の営みの果てにあり、なおかつ途中にあることを知らされたように思った。
■小野博の組写真では、地理的にはバラバラな場所を隣り合わせることで、新しい世界の読み取り方を示す。電柱からニューヨークを眺める、公園と墓地など、現実的で詩的なイメージが生まれる。意図的ではないだろうが、花のように爆弾が降るニューヨークを描いた大岩オスカール幸男の絵が、小野博の空家のような暗闇の写真に映り込んでいた。
■リースハウトの映像インスタレ−ションは面白い。「ラリアム」とは、マラリアの薬の名で、オランダ人の彼がガーナでラップを教えてもらい、子供たちと「ラリアム」の歌を歌い踊る映像が流れている。私は、宣教師のようなリースハウトの側に立ったり、ヘンな兄ちゃんが「蚊に刺されたらどうなるの?」と歌うのを見ながらノリノリになる子供の身にもなった。旅人になるか、旅人を迎える側になるか、どの他者に自分を投影するかで見方が変わるだろう。
■国境を写す渡辺剛。小屋と、地殻変動を起こす山の映像を組み合わせたビル・ヴィオラに揺さぶられ、雄川愛の光の階段のインスタレ−ションでは、じっくり見ようとするとはねつけられる。
■人はまったく知らないことは想像できないし、実際に見てみると想像と違うこともよくある。そのはざまで、新しいヴィジョンを生み出すこともできる。実際の旅も作品を見る旅も、新しいものに接する抵抗感も含めて、心身ともに疲れもあるし、それも楽しい。雄川愛のあのドアの先に行く前に、まだ見るべきものはたくさんあるのだと思った。
旅—「ここではないどこか」を
生きるための10のレッスン
2003年10月28日(火)〜12月21日(日)
東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3-1
(竹橋駅1b出口より3分)
10:00〜17:00(金曜日20:00まで)
月曜休(11月24日は開館し、25日休)
一般850円 大学生450円 高校生250円
小中学生は無料(ホームページにて割引券掲載)
TEL.03-5777-8600(ハローダイヤル)
words:白坂ゆり
大岩オスカール幸男
「ガーデニング(マンハッタン)」2002年
エリック・ファン・リースハウト
「ラリアム」2001年
右:フィッシュリ&ヴァイス
シリーズ「エアポート」より 1988-2000年
左:渡辺剛 シリーズ「Border and Sight」より「Slovakia-Hungary #1 2000」 2000年
渡辺剛 シリーズ「Border and Sight」より
「Federation of Bosnia and Herzegovina(Sarajevo)—Republika Srpska(Sarajevo)#2 2001」2001年
奥のインスタレ−ション「Japan5-0」2002年
ビル・ヴィオラ
「十字架の聖ヨハネの部屋」1983年
2003-10-28 at 12:33 午後 in 展覧会レポート | Permalink
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