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2003/09/09

屋代敏博展

「回転望」 


art189_01_1「回転回 東京」装置付き 2003年


■風景写真の中に回転する黒い物体がある。それは、黒い全身タイツを着た作家本人であると、前回の個展のときに書いたが、いまひとつ想像しにくかったのではないだろうか。今回の個展では、その種明かしをしている。

■ヨーロッパの博物館にあるかのような立体視をのぞくと、平穏な東京の公園でくるくる回っている物体が見える。それが作家自身の身体だ。前回はシャッター速度を合わせて周囲の風景は静止していたが、今回、ブレながら動いているように見えるのは、右目で見た風景と左目で見た風景のズレを表している。地面や壁も円を描いて、しゅるしゅると埋もれていきそうなものもある。モノクロにしたのは、現実感をなくすためだろうか。どこか異次元へのテレポーテーションのようにも見えるし、重層的な風景がずれながら変わっていくようにも見える。

■彼は「人も動物も建物も物体も、回転というエネルギーをかければ、惑星や原子と同じように、球体もしくは円形になる」という。つまり複雑に見えることも本質の部分を見ていけばシンプルなはずだと。それを証明するために、全身タイツを持ち歩き、回っているのである。

■最初は「なるほど」と思うのだが、よくよく考えるとやっぱりどこか腑に落ちないところもある。ここにはみ出るものがあるからこそ、シンプルにはできないのではないか。かといって、納得できればいいというものではない。むしろ考え方の枠組みとして、ちょっとそれ使ってみようかなと思わせるものがある。また、写真なのに、現実とのはざまでひとつのヴィジョンとしての虚構をつくっている。だから、頭をガチガチにして見る必要もないだろう。回すことによってほぐれることは確かにある。時々頭を振ってみたリすることも大事だ。

■環境に調和するとか、いろいろな見方はできるだろう。しかし、実際にはさほど意味がなくて、けれど、ひとりの人間が何かを確信して積み上げていくうちに、大いに役に立つ意味のあるものに見えてくることがおもしろいのだと思う。スツールの上で天体になりきっている屋代を見ると、やはり何か気持ちが開けてくるような感じがする。

屋代敏博展「回転回」
2003年9月9日(火)〜10月4日(土)
ツァイト・フォト・サロン
東京都中央区京橋1-10-5 松本ビル4F
(京橋駅B6出口より徒歩5分)
10:30〜18:30(土曜〜17:30)
日・月曜・祝日休
TEL.03-3535-7188

words:白坂ゆり

art189_01_2「回転回 パリ」2002年


art189_01_3「回転回 パリ」2002年


art189_01_4「回転回 パリ」2002年


art189_01_5「Le Frigo」2002年


art189_01_6「On the stool」2003年


art189_01_7「On the stool」2003年

2003-09-09 at 01:03 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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横浜トリエンナーレ2005でもさりげなく異彩を放っていた屋代敏博さんのワークショップに参加してきました!その模様をビデオキャスト。 屋代さんの作品は、屋代さん自身が回転する台の上に寝そべって、回転する自分自身をロングシャッターで撮影するというものでしたが、トリエンナーレで多くのボランティアや観客との交流の中から、「あなたも回転してみませんか?」と変化し、今では中学校や一般の個人宅などでたくさんの人に回転してもらっているとのこと。昨年末から横浜美術館にアーティストが滞在して作品制作を行う「ア... [続きを読む]

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