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2003/09/01

宮永愛子展

「なくなってしまわない」 


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■宮永愛子さんの作品をはじめて目にしたのは大学の卒業制作展を訪れた時だった。完全な形ではなく、侵蝕されていくかのように、一部が消えてしまっていたり、ところどころ薄くなっていたナフタリンで出来た服。学長賞を受賞していたこの作品は彫刻コースの学生達の作品が並ぶ会場で、異質で際立ってたので記憶に残っていた。

■マンションの一室にある非営利のアートスペースCASで開催中の今回の個展には、ナフタリンの靴9点が並ぶ。これらはいわゆる仕事履きの靴。実際に履かれていたものから型をとっている。片方ずつの靴には、中底にナース、OL、サラリーマンといった職業と数字が記されたタグがついている。数字はその人の年令を指しているのだそう。

■靴の形はそれぞれ、すり減っていたり、かかとがつぶれかかっていたり、個人によって履き慣らされた跡がうかがえる。しかし真っ白な素材のせいか、そこに生々しさはあまりない。少しずつ気体へと昇華して、いつのまにか消えてなくなってしまうナフタリンの性質が、部分的に穴が空いていたり、厚みが薄くなっていたりと、状態が変化していくさまを示していて、過ぎてゆく時の流れを感じさせられる。

■新しい服や靴を選ぶ時は自分の趣向を肯定して身に着ける。プライベートの服装は流行に左右されて着用することも多い。過去を捨て続けることを楽しむかのように、その時々の変化に反応して人々は流行を追う。でも、職場で着用する服装や靴は、「その職を務める自分」であることや、その社会的立場を確認できる道具でもある。だからこそ、そこに身を置いて積み重ねてきた時間の経過が、服装や靴に現れてくる。

■作品の靴は少しずつ形を変えていく。物事をうつろわせる時の果敢なさは感じられるけれども、このケースの中では、新たな出来事が起こっていることも確認できる。アクリルのケースの内側の壁面には、小さな白い粒がたくさん付着していた。昇華するナフタリンが新たに結晶化したものだと聞いた。刻々と過ぎてゆく「現在」と同時に、新しい出来事が起こっている現在があった。窓から射し込む光によってきらきらと反射するそれらの様子を見ていたら、その先の未来へも想像が膨らむようだった。


宮永愛子展「まどろみがはじまるとき」
2003年9月1日(月)~10月4日(土)
特定非営利活動法人キャズ(CAS)
大阪市中央区内淡路町2-1-7 都住創内淡路602 MD Art 内
(京阪天満橋駅東出口/地下鉄谷町線天満橋駅4番出口より徒歩7分)
13:00~19:00
日曜・祝日休
入場無料
TEL.6-6941-3237


art189_04_2ダンサー 38


art189_04_3ナース 42


art189_04_4昇華により消えてなくなってしまった部分もある


art189_04_5ケースの壁面にはナフタリンの結晶が付着している


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2003-09-01 at 02:58 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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