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2003/08/29

Vol.50 善積湖戯人(Kogito Yoshizumi)

「"始まり"から"終わり"までの過程そのものが気になる」

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実際に発表された時に実物を見ていないのにもかかわらず、写真やDMで知った「顔出ス」という白いゴム膜の奥から笑い顔が浮き出て来る作品のインパクトが強烈で、それ以後、その独特の質感と形態の作品がどんな発想から生まれてくるものなのか気になっていた。見せてもらった分厚いノートには、ほぼ毎日、描いているという細やかなドローイングの数々。不思議なかたちが沢山描かれていた。現在、個展を開催中の善積湖戯人さんに制作についてインタビューした。

■独特の質感や形がいつも気になるんですが作品には何か共通したテーマがあるのですか?

ほぼ毎日、思いつくままに頭の中にあるイメージをノートに描き溜めているんだけど、それを後から眺めて、ああ、これはかたちにしたいなと思ったものを作品にすることが殆どです。だから、作品自体については何とでも説明できてしまいそうだけど、コンセプトはそれぞれバラバラだったりします。でも、これまでずっとこだわっている要素はある。95年の「噴泉」が始まりです。素材は木なんだけど、丸太から、作品へと完成する過程そのものを表現したいと思って作った。丸太の上の部分は、切り込みを入れた跡やチェーンソーの跡が残っている。他はノミで削って、ぴかぴかに磨いていて、下の方はもう木ではなく、液体が垂れているイメージ。素材を加工して作品になるという過程自体を視覚化したものです。

■作品は共通して「過程」をポイントにしているのですか?

いつも頭の中で考えていることは、始まりがあって終りがあるまでの過程自体、変化自体。その過程にあるさまが気になってしょうがないんです。生物のような作品が作りたい。「遷」は、全体としてはひとつのかたちに出来上がっているんだけど、それぞれの部分は、でかいパーツからどんどん細かいパーツに分かれている。限りなく細かい細胞がひとつのかたまりに統一されているような。

■有機的なイメージの表現なのですね。

そう。「顔出ス」は、ゴム膜を張ってるんだけど、モーターで動く装置を取り付けていて、内側から顔の輪郭が出てくる。はじめは顔には表情は無いんだけど、前方へ顔が出てくると笑い顔になるんです。それに連動して、体勢も前のめりになる。この時は動きによって変化の過程を表そうとしていました。STREET GALLERYでの展示は面白かった。作品は道行く人たちに見てもらえるんだけど、小学生がずっと作品に見入って不思議そうに覗き込んでいる姿も見れて。

■最近の作品は、銅板を素材に選んでいますよね。

銅板を素材に使うきっかけになったのは北山善夫さんの作品。北山さんとは、昔からの知り合いで、制作の手伝いをしていたんです。その時の作業から、銅板って丸くすることもできるんだと知って。銅板は最初はただの板なんだけど、他の金属より粘り気があって、扱いやすいんです。叩いていくうちにどんどん立体的になる。そうやって変化していくさまが面白くて。僕が毎日ノートに描いている絵の形や質感は、銅板で作る方がしっくりくると思う。

■描き溜めているドローイングを見ると絵もうまいと思うのですが、どうして立体作品を作る方向へ?

北山善夫さんが彫刻家だったことが影響してる。ごく身近に芸術家が居たということ、ごく普通にそれに接して暮らしてきたことも大きいです。

■北山さん自身から随分影響を受けた?

作品を作ることに関してはダントツで影響を受けてきたな。作るということが本当に楽しくて。だから時々作品について指摘されるんです。作ることへの喜びは伝わってくるけど、何を伝えたいのかがあまり見えてこないって。主題があってどう、というものではなく、僕の場合は最初に作りたいものがあって、他の事は後から当てはまっていく感じなので。

■かたち自体が作りたいもの、ということですか?

単にかたち、なのではなくて、作っていくうちに意味がくっついてくる作品。例えば日本では、ずっと長い間その場所にあった石を土地の神様として奉ったりする。石自体はただそこに転がっていただけなんだけど。いつのまにか土地の人によって、意味がどんどんつけられていく。悪い意味を持つ場合もあるけど。そういう作品を作りたい。そういう作品に成っていけばいいなあって。僕自身が主張を込めて伝えるものではなくて、まるで山から転がってきた石のように、自然に思いついたかたちを発表して、見てくれた人がそれぞれに思いを巡らせたり、捉え方ができる。そういう作品がいい。ときどき、自分が全く考えていなかったことを他の人から言われることがあって、それが面白い。

■今回の作品は?

人の気持ちって言葉に出してしまえば、ひとつにまとめられてしまうんだけど、本当は複雑だったりする。こうは言ってみたものの、別の気持ちもあるとか、次の日にはまた違う気持ちになっていたり。それをかたちにしたいと思って。銅板で作ってるんだけど、銅板自体はでこぼこしていて、その表面を樹脂で塗装しる。一見、表面はつるつるしていて、凹凸なんてないんだけど、中の銅板は凸凹。二重性をもつひとつのかたちのシリーズです。


※8月31日(日)までアートスペース虹(京都)にて個展を開催。
善積湖戯人展「埋合ス」
会場/アートスペース虹
(京都市東山区三条通り神宮道東入3丁目東町247 tel.075-761-9238)
会期/2003年8月26日(火)―8月31日(日)
開廊時間/11:00~19:00(最終日18:00まで)

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words:酒井千穂


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「噴泉」 1995
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「遷」 1996 

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「顔出ス」2000
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「顔出ス」2000
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「顔出ス」2000
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「顔出ス」2000
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「奥は深い」 2002
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「奥は深い」 2002
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「埋合ス」2003
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「埋合ス」2003


善積湖戯人
(Kogito Yoshizumi)


1974年 京都市生まれ
1998年 京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業
 
個展
2000年 顔出ス(CUBIC GALLERY /大阪)
顔出ス(STREET GALLERY /兵庫)
2001年 ネジノジガ(CUBIC GALLERY /大阪)
2002年 奥は深い(CUBIC GALLERY /大阪)
2003年 埋合ス(アートスペース虹/京都)
 
グル-プ展
1998年 perfect versus vision(CUBIC GALLERY /大阪)
2000年 mixed up!(複眼PLUS/大阪)

2003-08-29 at 09:52 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink

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