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2003/08/22

コンテンポラリーアートを支えるお金持ちとモード界

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■今年のヨーロッパは異常な暑さであった。イタリアでは6月から3ヶ月も気温が下がらない。連日35度〜40度。新聞によると過去200年来このような暑さを記録したデータがないそうだ。(200年も前から気象を観測していたなんてすごい。)今年のヴェネチア・ビエンナーレのオープニング会場では、この酷暑のため高齢の見学者の中に死者もでた。そんな暑さのなか森美術館が配付していたうちわは大好評であった。ところで、ヴェネチア・ビエンナーレなどの大きなお祭りになると、毎年予算がないという記者会見から始まるそうだ。イタリアは古いものがあり過ぎてコンテンポラリーアートまで国家予算が充分にまわってこないのだ。同じヨーロッパでもフランスやドイツ、オランダとは事情がちがう。

■今年のヴェネチア・ビエンナーレの総合ディレクターはフランチェスコ・ボナーミ。元Flash Artのニュ-ヨ-クのエディターでもあり、現在はシカゴ現代美術館のキュレーターやイタリア・トリノのあるサンドレット・レ・レバウデンゴ財団アートセンターのアートディレクターなどをつとめる。レ・バウデンゴ財団は2002年に新しくコンテンポラリーアートのスペースをオープンさせ波に乗っているところだ。イタリア語で「レ」とは王様を意味する。このレ・レバウデンゴ家もピエモンテ地方の貴族で資産を有するお金持ちだ。最近コンテンポラリーアート界に参入してきた。前回のビエンナーレでもシチリア、パレルモのゴミ捨て場が背後に広がる山腹(イタリアでは貧困と失望をイメージするような象徴の地)にハリウッドにあるアメリカの夢と希望の象徴であるHOLLYWOODの看板をわざわざ同じサイズで設置する(数千万円もかけてわずか5ヶ月で撤去)というなんともアイロニカルなマウリツォ・カテラーンのプロジェクトを総べてサポートしたのもレ・レバウデンゴ財団だ。このプロジェクトを公開するにあたり、飛行機をチャーターしヴェネチアからパレルモまで美術関係者を一日招待した。このプロジェクトのために数千万円も援助したらしい。もちろんフランセスコ・ボナ-ミの口利きによる。

■ミラノではプラダ財団が独自のスペースを持ち、コンテンポラリーアートをサポートしている。ファッション・ブランドがコンテンポラリーアートに参入した早い例だ。もともとコンテンポラリーアートのコレクターであったミウチャ・プラダが作品収集から展覧会をサポートする様になったのがこの財団のはじまりだ。ここのアートディレクターはコンテンポラリーアート界の大御所ジェルマーノ・チェーラントだ。年3〜4回の企画は毎回、巨額の予算で中身が濃い展覧会を実現する。あわせて出版されるカタログもかなり充実したものとなっている。また、ファッション・ブランドのトゥルザルディの財団も最近あたらしいアートディレクターが就任し、面白いコンテンポラリーアートのサポートや展覧会をはじめた。この夏には、ミラノのドゥオウモ広場前にあるアケード内に登場したMichael Elmgreen & Ingar Dragsetの作品をサポートしたのがトゥルザルディ財団だ。ミラノの中心地に登場した作品はわかりやすくてユーモアたっぷりで、通行人や観客の注目をかなり浴びていた。

■ミニマルアートを中心としたコレクションで世界中に名をはせたのが、イタリア人コレクター、パンザ伯爵だ。ミラノ近郊ヴァレーゼの別荘にアーティストを招待し、その場所にあわせて作品制作を依頼したりして、生涯に渡り数千点のコレクションを実現した。今ではこの別荘も一般公開され誰でも見学することができる。さらにシチリアのセンメント王は、人が訪れないシチリアの大地に野外彫刻の制作を依頼したり、所有するホテルをア-ティストホテルとし、各部屋の作品化をア-ティストに依頼したりする。古くは、ヨゼフ・ボイスの数千万円の莫大な費用がかかるプロジェクトを支えたひとりがイタリア人コレクターでもあった。ボイスは、ナポリにもアトリエを構えるなどイタリアとも縁が深かった。

■コンテンポラリーアートを支えるのがお金持ちとモ-ド界というのが非常にイタリアらしい。簡単に言ってしまえば、これはイタリアの社会システムによるところが大きい。国は貧しいが個人が豊か。貴族や庶民との爆発的な貧富の差。それでも庶民の日々の最低限の生活は困らない。経済を支える星の数ほどの文化財や最先端のファッション。長い歴史。そして何よりもアートマ-ケットが存在するからだ。もちろん税金対策やこの国の闇で流通するブラックマネーなど生臭い話は付きまとう。しかし、文化が成熟してアートが育つための条件がこの国にはある。光と闇のドラマがこの地中海の国を豊かにしているのだ。


words : 廣瀬智央


Republic of Italy -29 August 2003 relies
 sekai4_3ガレリアにキャンピングカー付きの車が埋没しているMichael Elmgreen &Ingar Dragsetの作品。作品がプラダのショップの前でナポリナンバーというのが細かいスパイスが効いていて笑える。事故か?何か?戸惑う通行人たち。アート作品と知って笑いに変わる。

sekai4_4プラダ財団で発表されたMARK QUINNの作品。
会期中、冷蔵装置の中で生花が生き続ける?
自分で採取した血液で作った彫像につづく新作。
foto:Attilio Maranzano, Courtesy:Fondazione Prada

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パンザ伯爵

sekai4_6パンザ伯爵の別荘の廊下のため制作された
DAN FLAVINのインスタレーション作品

ゲストリポーター: 廣瀬智央(アーティスト)
1963年東京生まれ。多摩美術大学卒業後、1991〜2年にイタリア政府給費奨学生として渡伊。イタリア・ミラノ在住。トリノのニコラ・フォルネッロギャラリーにて個展(9/19-10/18)を開催。日本ではエルメス(銀座)のウィンドウを用いた展示を9/23まで行なっている。

2003-08-22 at 10:10 午後 in ワールド・レポート | Permalink

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