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2003/06/17

福井篤展

「やわらかい布の風景」


art183_04_1「こんにゃく山」(65.5×73cm)


■『絵画の新世紀』(広島市現代美術館)にも出品中の福井篤さんの個展が京都にあるギャラリーTAFで開催されている。福井さんの絵に出会ったのは、昨年、同じ会場で3人の作家による展覧会が開かれていた時。一見、連なる山々の風景に見えた作品は、実は積み重なった服や布巾の山で、太陽だと思ったものは天井に取り付ける電灯だった。描かれていたのは野山の風景ではなく、それに見立てた、見覚えのある暮らしの中の光景。その雰囲気やタイトルがとても魅力的で心に残っていた。

■作品は綿布にアクリル絵具で描かれている。縞模様のタオルや布が重なり、白いTシャツの襟らしきものがのぞいている山。牛乳のこぼれた格子柄の布巾。画面には遠くまで続くような奥行きと広がりがあり、夢の中の世界のようにも見える。DMには「名前のない色」という福井さんの言葉があった。眺めていると鈍くて柔らかな色づかいの絵の中に誘い込まれる。

■タオル地のなだらかな丘の向こうに山が見える「そっくり世界」。雲にうっすら隠れた太陽のような丸いものは、太陽でも月でもなく部屋の照明。手前に描かれている二つの山は福井さん自身のひざ小僧なのだそう。片方のひざを見て思わず口元がゆるんだ。

■目立たないけれど、画面に合成樹脂製の接着剤をつけたような跡のある作品がある。それは飛蚊症という目の症状をイメージしたものだという。病気の場合もあるそうだが、目の前をひらひらと虫のようなものが飛んで見える経験は私にもある。本当は自分の目の中のものが映っているのに、あたかも目の外側を何かが飛んでいるように見える。その微妙な存在もひそやかに画面に表されている。

■「こんにゃく山」、「グーグー惑星」、「魔法療法」、「催眠航法」といったタイトルは読むだけで肩の力が抜けて心地よい気分になっていくような気がする。作品が低い位置から遠くを眺めるような視線で描かれているせいか、それともタイトルがあまりにも魅力的だからか、やわらかいタオルケットに包まって寝ころびたい気分でいっぱいの帰り道だった。


福井篤「霧状生活」
2003年6月17日(火)―7月6日(日)
ギャラリーTAF
京都市上京区寺町通今出川下ル扇町277-1 EATビル2F
(京阪電車 出町柳駅下車今出川通リ西ヘ徒歩約8分)
12:00~18:30
月休
TEL.075-223-1815


art183_04_2「においのいい草」(80.5×91cm)

art183_04_3「グーグー惑星」(100×100cm)


art183_04_4「そっくり世界」(130.5×145.5cm)


art183_04_5「魔法療法」(73×91cm)


art183_04_6「じぶんのはしっこ」(27.5×45.5cm)


2003-06-17 at 01:14 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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