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2003/05/01

西本剛己展

「美意識の貫通」


art180_02_1会場展示風景


■西本剛己という作家は希にみるセンスの持ち主だと思っている。設計デザインの仕事をしていて、アクセサリーショップの内装デザインを手掛けるなど、空間をスマートにまとめあげる才能に長けている。プライベートでも日常用品を商品ディスプレイのように並べ、生活臭のないショールームのような部屋で暮らしている。

■彼の作品に初めて出会ったのはもう10年も前のこと。深く練られた思想をビジュアル化する仕事をコンスタントに発表してきた。形態は大掛かりなインスタレーションで見せることが多く、今回は近年の集大成的な展示となっている。

■照明をおとした会場には各壁面で簡潔するような作品が配置してある。「弓指」という5つの小瓶がぶら下がった作品、包帯のキャンバスにバイオリンケースが垂直にはめ込まれ中から羽毛を覗かせている作品、文庫本でサークルを作りパネルに貼った作品、茶封筒が収納された10メートル幅の巨大な棚。空間中央には包帯で覆われたパイプベッドと文庫本のサークルを組み合わせ、その横の壁には揺れるカーテンの映像が投影されている。

■サブタイトルにあるように、部屋を想定しているのだろう。ベッド、本棚、窓、どれも生活空間のパーツであるが、巻かれている包帯は黄ばみ、本棚はシワのよった無数の封筒が占拠し、大量の文庫本は色褪せて固まっていて、全体に廃虚を彷佛させる。堕天使が身を隠す穴蔵のような感じもする。しばし雨のふりそそぐ窓の映像を見つめていると、いつのまにかしぶきが下から上へ逆走していた。

■それにしても一寸のスキも見えない空間だこと。几帳面な作家であることを知っているため、本棚の封筒の傾き加減も、包帯のホツレすらも意図しているような印象を受けていたのだが、案の定、すごい制作秘話を聞いてしまった。新品の封筒を古びたものにするため、封筒を折る動作を何万回も繰り返し、腹筋を使ったためにぜい肉が取れてスリムになったというのだ。そして封筒は好みの並び方を維持するため棚の1段ごとに接着済み。笑える偉業?に感服した。

■隅々まで美意識の貫通させたこの部屋で、作家は一体どんな思考を巡らせているのだろうか。

西本剛己展―静かな部屋―
2003年5月1日(木)~5月28日(水)
INAXギャラリー2
東京都中央区京橋3-6-18 INAXアーキプラザ2F
(営団地下鉄「京橋」より徒歩1分)
10:00~18:00(日祝休)
入場無料
TEL. 03-5250-6530

※アーティスト・トーク
2003年5月28日(水) 18:00~19:00
ギャラリーカフェ(会場同フロア)にて
入場無料、先着20名 (予約不要)

作家HP
http://members.jcom.home.ne.jp/artlab21/

art180_02_2バイオリンケースのついたパネル「共振」


art180_02_3文庫本が円になった作品「日蝕―経済学」


art180_02_4映像はカーテンのある窓辺の風景


art180_02_5ずらりと封筒の並んだ書棚は「分類学」


art180_02_65つ並んだ作品「弓指」


2003-05-01 at 02:32 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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