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2003/04/25

Street Selections展/ドローイング・センター(ニューヨーク)

街のざわめきをとらえたドローイングの線

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Amy Bay「Painting」

■マンハッタンのダウンタウン、ソーホーを北から南に歩く。今や有名ブランド店が立ち並び、かつて画廊があった通りも買い物客だらけ。それでもまだ、この場所でこつこつと活動を続けているのが、ソーホーの南西端、チャイナタウンに近いウースター(Wooster)通りのドローイング・センターである。1977年に設立、その名の通り米国で唯一、ドローイングを専門に展示する非営利機関である。古典から現代までその扱いは幅広く、ドローイングの重要性や多様性を提示する役割を果たしている。ニューヨークには非営利のアートスペースがいくつかあり、独自の視点で若いアーティストやユニークな作品を紹介しているが、ドローイング・センターもその一つだ。

■同センターのメインギャラリーでは、過去3世紀にわたるドローイングの長大な歴史をひもとく「The Stage of Drawing:Gesture and Act」(英テート・ギャラリーとの共同企画展)を開催中だが、ターナーからドガ、ウォーホルまで巨匠がずらりと並ぶ同展は説明不要として、今回は同時開催されている「Street Selections」展を紹介したい。

■静かな通りに面した同センターの別室。中に入るとスタッフが小さな手描きの地図を渡してくれた。ふと見ると、彼女の手は休みなくガラス張りの壁から見える外の風景をスケッチしていた……。そんなリラックスした雰囲気の漂う「Street Selections」展は、アメリカ在住の若手アーティスト6組8人が、ソーホーの街並みや建築物、そこに行き交う人々との関わりの中から作品を制作し、展示室内だけでなくウースター通り沿いにも作品を展示する試み。もらった地図を片手に、ギャラリートークに参加してアーティストと共に通りを歩いてみた。

■Amy Bayは、ありふれた街のレンガ壁に注目し、そのパターンや細かなずれを色鮮やかに再現。見慣れた壁に騙し絵のような効果を生み出した。3人組のBBSはソーホーの街を走るトラックの中で宙ぶらりん!になってドローイングを制作、その様子をビデオに収めた。へろへろの拙い線が臨場感を際立たせる。Harrell Fletcherは会期中、通りを行き交う人々との対話を通じて作品のためのドローイングやアイデアを描き、その過程をレポートとして配布する。壁に描かれたイメージと言葉との間にはどんな関係があるのか—Cecilia Galienaの作品は雑踏の片隅で静かに問いを投げかけている。Rebecca Hermanは展示室から通りへ、かすかな地表の揺れをつかみとるかのようにクレヨンでにせの「ひび割れ」を描き込んだ。Jamie Pawlusは私たちを惑わせる道路標識を通りに立てる、それはもう一つの世界への道しるべなのかも知れない。

■ドローイングは、同じ線をたどることのないアーティストの最初の筆跡である。ノートの切れ端に描いたスケッチ、溢れ出るアイデア、親しい人との個人的なやり取り……そこには、他の制作方法にはないアーティストの素顔が垣間見える。それが、私がドローイングに惹かれる魅力の一つだ。同展では、アーティスト自らが体験した街の雑踏やそこを行き交う人々とのかかわりをドローイングの線が生々しく描き出している。現在のソーホーでは、こういうアート体験が貴重なことになりつつあるのは残念なことだ。「Street Selections」「The Stage of Drawing:Gesture and Act」展は5月31日まで開催中。詳しくはドローイング・センターまで。


words : 塩崎浩子

United States -25 April 2003 relies
 
Street Selections展/ドローイング・センター(ニューヨーク)

sekai2_2BBS(Jesse Bercowetz, Matt Bua and Ward Shelley)
「Drawing while Driving(Drawing Experiments with a Truck)」

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Harrell Fletcher「The_Report」

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Cecilia Galiena「Solids Matter」

sekai2_5Rebecca Herman「Street Tectonics」

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Jamie Pawlus「Get-Go Sign」

ゲストリポーター: 塩崎浩子(フリーライター)
1990年から99年まで美術雑誌「日経アート」編集部に在籍ののち、2002年に米国へ。美術分野を中心に編集・執筆活動中。現在ニューヨーク在住。

2003-04-25 at 09:48 午後 in ワールド・レポート | Permalink

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コメント

塩崎浩子さんと連絡がとりたいです。

投稿情報: 花里麻理 | 2006/09/22 13:01:31