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2003/01/17

屋代敏博展

「回ればわかる」 


art173_01_1展示風景


昔「会議は踊る」というドイツ映画があった。ナポレオン政権時の外相タレーランが「会議の4分の3が食事と舞踏会だった」と書き残した、社交的な雰囲気のなかで行われた「ウィーン会議」が舞台。世界は輪舞、回っている。

■装飾されたテーブルや椅子、肖像画など、絢爛たる部屋の写真が2枚組で並んでいる。観光のためのセットのようだ。しかし、よく見ると、なにか奇妙な黒い物体が回っている。

■これらは、ロワール地方の古城を、12人の写真家で一人一城担当し、現地で制作と発表を行うという、フランス政府とポンピドゥーセンターの合同プロジェクト「Architecture et Paysage〜建築と風景〜」で発表した作品。屋代は、タレーランの領地であったヴァランセー城を受け持ち、パフォーマンスを行った。種を明かすと、この回る物体は、屋代本人。頭からすっぽり隠れる黒いスーツを着て、お腹の下に自作の回転体を敷き、手で床を蹴って回っているのだ。露光の関係で、屋内では15分、逆に野外では1秒で高速回転しなければならない。肉体労働である。

■しかし、展示ではそのようなプロセスは見せない。「どうやって回るか」よりも「なぜ回るか」が重要だからだ。世の中には、無数の物体が存在し、とても複雑に見える。屋代はあるとき、自然(人間、動物、植物、鉱物など)も、人工物も(建物、工業製品など)もどれも違うかたちや構造をもっているが、ひとたび「回転」というエネルギーを加えると、どれも同じ円あるいは球形になってしまうことに気づいた。(鉛筆回しの法則?) 原子も地球も太陽も「球」なわけで、大本から見れば、案外シンプルなことかもしれない。

■そうして屋代は、目の前の異文化あるいは他者に、影として忍び寄った。手裏剣のように回りながら(現地で彼は「NINJYA」と呼ばれた)。彼は、他のものと同じ、ものとしての存在になって。だからこれらはセルフ・ポートレートである。と同時に、見る側にとっても、球体に自分を投影したり、あるいは球体を媒介にしたり、あるいはこれをひとつの世界のありかたとして、豊かなコミュニケーションがとれる作品となっている。

■万物みな同じという考え方は、ひとつ間違うと危険だし、「なんだか丸め込まれた」気にもなる。ただ、世の中のものごとが、組み合わせの過程で複雑になっていくなかで、私達は途中段階で頭を抱えていることが多い。根本を見ないで、あるいは見て見ぬふりをしていることも。

■彼が、世界のあらゆる物事を測量するのに、「ひとつ回してみるか(回ってみるか)」という実験をしているのだとすれば、私もその定規を一つ持ってもいいかと思う。ちょっと回ってみたくもなる。日米の首相も試しに回してみたいところだ。

屋代敏博展 回転—無言の客
2003年1月17日(金)〜2月12日(水)
ツァイト・フォトサロン
東京都中央区京橋1-10-5松本ビル4F 
(地下鉄京橋駅B6出口より徒歩5分、ブリヂストン美術館裏手)
10:30〜18:30(土曜〜18:00)
TEL.03-3535-7188

words:白坂ゆり

art173_01_2「Chateau de Beauregard(著名人の回廊)」


art173_01_3「Chateau de Valemcay(青の間)」


art173_01_4「Chateau de Valemcay(スペイン王の寝室)」


art173_01_5「Chateau de Valemcay(中庭)」


art173_01_6「Chateau de Cheverny(シェール川に面した大回廊)」

2003-01-17 at 11:12 午前 in 展覧会レポート | Permalink

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» 屋代敏博さんから回転のお知らせです。 from Take ART Eazy!! Roll wiz'it!
来る11月3日(木、祝日)、横浜トリエンナーレ2005出品作家の屋代敏博さんが回転します! 横浜美術館の開館記念日にあたる3日にスタートする展覧会「アーティスト・イン・ミュージアム 横浜」は、美術館内に作家が実験スタジオを開設し、来館者と制作をしたり、交流するという新しいタイプの展覧会です。オープン初日は午前10時から午後18時まで、オープン記念パフォーマンスを決行します!みなさん是非お誘い合わせの上、屋代さんの回転を目撃してください!必見の回転になること間違いなし! また、同展覧会では、作家... [続きを読む]

トラックバック送信日 2011/06/05 11:49:43

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