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2003/01/06

上島松男 断裁アート展

「余技の本気」


art172_01_1展示風景


■ノーベル賞を受賞した田中耕一さんの発見は、誤ってつくった試料を「捨てるにはもったいないから」と調べてみたところから生まれたという。切り捨てられるところ、ムダとされているところに、まだ逆転のチャンスは残されている。

■製本家の上島松男(かみじままつお)さんは1939年生まれ。15歳の頃からこの職に携わり、1983年から手製の製本屋、美篶堂(みすず堂)を営んでいる。杉浦康平デザインの『井上有一全書業』ほか、勝井三雄、いまは亡き田中一光など、関わったデザイナーたちもそうそうたる面々だ。工藤強デザインの、佐倉市美術館「チバアートナウ2001」のじゃばら折カタログも手がけた。デザイナーのアイデアに極力応え、不可能な場合は、できる限り劣らない代替案を提示する。クリエイターにとっての頼みの綱のような場所だ。

■上島さんがもうひとつ手がけているのが、絵具替わりに、製本で出た裁ち落としの紙を利用したアート作品だ。10センチほどの束をグラデーションに丁合いして糊付し、さらに細く断裁した束を下地に貼って絵をつくる。大量の残紙は、廃棄処分に費用がかかる。竹尾のペーパーサンプルを制作した際に残った紙を見てから、二十数年温めてきたアイデアを、97年に初めてかたちにして発表した。それを見た新井満氏が「断裁アート」と名付けたのだそうだ。

■渋谷から川崎に移転した書店、プロジェットの書棚には、桜や富士の風景画や、円やストライプで構成した画などが展示されていた。屋久杉をモチーフに、森のなかの新芽を描いた画は新作だ。具象と抽象のあいだのようなイメージは、幻想的で瑞々しい。表面に高低差をつけ、陰影を生み出している。小口がマーブル紙の「大漢和辞典」や着物の帯から作った製本も展示されていた。グラデーションのブロックメモなどのグッズは、断裁アートの余り紙から、スタッフが制作している。

■後日、美篶堂も取材した。屋久杉の作品については「紙はパルプからできているでしょう。森へ還るという"再生"がテーマでもあるんです」。単なるリサイクルではなく、新しいものを創造している。技術と経験に裏打ちされた"遊び"であり、実験だ。上島さんの手は、ものをつくる喜びを記憶しているような手だった。

上島松男 製本と断裁アート展
2003年1月6日(月)〜2月1日(土)
PROGETTO
神奈川県川崎市川崎区小川町4-1ラチッタデッラ内 
(JR川崎駅5分)
11:00-21:00
TEL.044-211-4616

words:白坂ゆり

art172_01_2「無題」


art172_01_3「雲海」


art172_01_4「屋久杉」


art172_01_5部分


art172_01_6ほんの数秒で断裁される。工場にある機械は、この断裁機のみ


art172_01_7切り落とされた束。レインボーの束は、紙1000枚以上と思われる


2003-01-06 at 01:38 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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