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2002/12/26

稲垣智子展

「どっちも本物」

art166_03_1生花のなかに1本だけプリザーブドフラワーが混じっている


■自然光をシャットアウトした人工照明だけの展示空間に3つの作品があった。展覧会の案内にも「人工物と自然との奇妙な関係を…」というくだりがあったが、その二項を対立させるというよりは、それらの関係のなかで様々なものを表現しようとする稲垣智子。

■ガラスの円筒型の花瓶に整然と差された淡いピンクの薔薇。一見、作品なのかどうか認識できないほどに、私たちの日常生活のなかにもありそうな極平凡な様相。しかし、1本だけ他と異なる花を見つけた。それだけが他の花よりほんの少し赤みが強く、他と違って茎がなく、チューブに花の部分だけをあずけていた。[植物人間]となって身体にチューブを通してただ眠っているだけのように生きている人がいる。意識はまったくないが、乾涸びることもなく生きている人をふと連想した。

■『White land』は、宝石店にあるようなショーケースを2つ用いている。一方のケースの中は、薬やお菓子の白いタブレットを敷き詰めた上に色とりどりの紙箱。もう一方は、沢山の白いユリの花に蝶や蛾が群がるように並ぶ。ユリも生花だけでなく、特殊な加工をした花が含まれ、ミラーガラスに包まれ、どの面から観ても中の景色がどこまでも続く。ビタミン・栄養補強の錠剤も薬の成分は自然のなかにある。「照明を浴びて輪郭をはっきり見せ、抽出されたエキスに生かされた人工的な美しさに慣れきっているのがわれわれ現代人」と嘲笑われているのか、なんて想像するのは卑屈すぎる。人工物も自然のものもどっちもみんな本物なんだから。

■稲垣の実家は人工島につくった関西空港のそばにあるという。空港に行くには長い橋を渡らねばならない。橋の同じ場所から撮った海とその向こうにある風景の写真を水平線でつないだ写真作品が『Dream island』。その日の太陽の出方によって海の色も大気の色も違う。人工的につくられた風景をとりまく自然のグラデーションを顕在化させている。

■数週間前に観た稲垣のパフォーマンス『SEA』が印象深く残っていたので、どんな展覧会になっているのか楽しみにしていた。イギリス留学中に既にグループ展への出品や受賞歴もある。初個展とはいうものの堂々とした仕事ぶりに、これからの彼女の創作活動への期待が高まる。

稲垣智子展 - Dream Island -
2002年10月7日(月)~11月14日(月)
CAS
大阪市中央区内淡路町2-1-7 都住創内淡路602号
13:00~19:00 日祝休
TEL.06-6941-3230

関連企画
対談 浅井俊裕VS.稲垣智子
10月26日(土) 16:00~ (参加費800円)

今後の予定
[神戸アートアニュアル2002 ミルフィーユ]に出展 10月26日(土)~11月17日(日)

words:原久子

art166_03_2「White land」(部分)


art166_03_3「White land」(部分)


art166_03_4「White land」(部分)
特別な手法で乾燥させたユリも生花のなかに混じっているが区別がほとんどつかない


art166_03_5「Dream island」


art166_03_6「Dream island」(部分)

2002-12-26 at 11:49 午前 in 展覧会レポート | Permalink

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