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2002/10/09

もとみやかをる展  

「"re"の力」


art167_01_1映像「Telling Tasmanian Tales」タスマ二アタイガー「ベンジャミンの憂鬱」奥「一年に消費するトイレットペーパー888個(紙の山)」


■観光地でその地の裏側を見てしまったとき、なんだか後ろめたい気分になることがある。今年、オーストラリアのタスマ二アで滞在制作をしたもとみやは、町中で木材の輸送トラックを目にし、その行方を知ることとなった。カンガルーや雨林などの独特の生態系で知られるタスマ二アの豊かな森林は大量に伐採され、その輸出先の80%は日本。製紙工場で紙になり、それを使っているのは自分たちだということを。

■今回の作品は、都庁からタスマ二ア材再生紙やシュレッダー屑を集めて制作されている。絶滅した有袋類タスマ二アタイガーもそのひとつ。500万年かけて進化したこの動物は、虎や狼に似ていたために、入植者たちに羊を襲うと勘違いされ、50年の間に報奨と引き換えに猟られてしまった。現在、科学者の手で標本からDNAの修復と復元に成功し、クローンとして復活させようというプランがあるという。それもなんだか勝手な話だ。「ベンジャミン」は、動物園にいた最後の一頭。1936年に死んだ。ベンジャミンの目線越しに背後から、森林やトラック、また森林協会をはじめタスマ二アの人々のインタビュー映像を見ていると、あくまで人間の勝手な想像だが、タイガーが過去から見通しているようにも見える。

■再生紙によるトイレットペーパー、その消費量を表すトイレット・ペーパーの立体……。今回は「修復と再生」がテーマになっている。もともとは、2000年に滞在したサンフランシスコのスタジオで、古い壁に障子紙をあててひび割れをトレースし、縫い閉じるドローイングを制作したことや、その翌年、テロ事件前に滞在したニューヨークの貿易ビル近くにあったスタジオ(ISCP)で、床の傷に手当を施して作品化したことの延長上にある。生物だけでなく、街や建物も修復や改装を繰り返し再生を続けているのだ。リサイクル、リノベーション、リジェネレーション……。

■アートを見ていると、古いビルを展示場にしたり、ギャラリーがあったり、「時間」を感じさせられる建物に接する機会をよくもつ。オフィスにでもいなければ、そうした建物に頻繁に出入りすることもなかっただろう。

■今回のような作品を見ていると、プロパガンダか、あるいは逆にアートは問題提起ばかりでいいのかという話にもなりかねない。作り手にとってもバランスを失いかねない部分。しかし、アートはフィクションをもって社会的な問題にかかわり、転換させることもできる有益な手段であると積極的に受け止めていいと思う。また、よく、見てしまったことに対して人として目はつぶれない、といういいかたもあるが、作家の立場から、つくることに意志を持って取り組んでいるように見えた。

もとみやかをる展「修復と再生」
2002年10月9日(水)〜11月9日(土)
ミヅマアートギャラリー
東京都目黒区上目黒1-3-9 藤屋ビル2F
(地下鉄中目黒駅より徒歩3分)
11:00-19:00 日月祝休
TEL.03-3793-7931


words:白坂ゆり

art167_01_2


art167_01_3「都庁のシュレッダー屑」


art167_01_4「一ケ月に消費するトイレット・ペーパー7.4個」


art167_01_5「東京都再生債券〜東京都は再生するか」(以上2002年)


art167_01_6右「11番スタジオの床の傷 第七番」 
左「11番スタジオの床の修復 第七番」(2001年)

2002-10-09 at 12:17 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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