2002/02/04
樋口健彦展
「黒いカタマリの正体」
床に展示されていた気になった作品。小さな球体からつくられている。
■先月、アートフォーラム(東京・有楽町)での3人展で樋口健彦さんの作品を見ていた。黒く、どっしりとした、やけに存在感のある立体。金属製だと思っていたら、パネルの素材表記に「陶」とあり、焼き物だったのかとふいをつかれる。芳名帳のそばに小さな立体があった。「手を触れないでください」とはどこにも書かれてない。チャンス! ちょろっと触るというより、持ち上げてみたかった。重さで陶を実感したかったのだ。
■でもなぜ金属作品だと思ったのだろう。真っ黒な色か? いや、たぶん決め手は形態だった。何枚も重ねられた薄い板状の物体イコール金属と思いこんでしまった。根拠のないいい加減な先入観に自分でもあきれる。で、両手で宙に上げて納得した。まさしく陶の重さ。
■視覚のあざむきを狙った作品? そんな読みはハズレた。樋口さんにとって、陶は立体をつくる素材としてだけ存在していた。陶土で形づくり、焼いてから墨汁に浸し、バーナーで表面を焦がし墨を定着させて完成する手法。焼く温度も塗りも陶芸とはかけはなれている。
■幾層も同じ形を重ねる立体物から、最近は球体や一枚板で新しい造形を試みている。大きさ、厚さ、形。焼いた時に思い通りの作品にするには、試行錯誤が欠かせない。陶とせめぎ合いながら、素材としての陶をとことん実験している。
■それにしても、黒一色でシンプルな形態なのに、冷たくないのはなぜなのか? 同展のサブタイトルに付いている「1/f」という言葉が鍵のようだ。規則性のない心地よい波動「=揺らぎ」を指すという「1/f」に、作家は自分の作品に通ずるものを見つけたらしい。焼くことで歪みを持つ陶、その陶の予知できない動きが、感情に揺らぎを与えたのだと思った。
樋口健彦展
2002年2月4日(月)~2月23日(土)
ギャラリー川船
東京都中央区京橋3-3-4 フジビルB1F
(地下鉄銀座線「京橋」3出口より徒歩2分、地下鉄有楽町線「銀座一丁目」7出口より徒歩3分)
11:00~19:00(日祝休)入場無料
TEL.03-3245-8600
会場風景
薄い陶板を何枚も重ねてひとつの作品になる「Real Number」シリーズ
画廊に入ってまず眼を奪われた直線の展示
こんなブツブツした球体の作品もある
最近は一枚板で造形に凝っている
2002-02-04 at 09:57 午後 in 展覧会レポート | Permalink
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コメント
十何年ぶりに,樋口健彦さんの作品をインターネットでですが,拝見しました。
大学時代の知人なのですが,彼らしい作品を見ることができ大変感激しています。
やっぱり“黒”。黒一色で温かみのある作品なので,是非会場で拝見したかったです。
今後も彼の制作活動を期待しております。
投稿情報: 吉田 恭子 | 2005/07/04 17:53:47