« 福本綾 作品展 | メイン | vol.37 中山 ダイスケ(Daisuke Nakayama) »
2002/02/07
染谷亜里可展
「現れた絵画」
「Decoder-Level 」ベルベット、パネル(2002)
■右側と正面に黒いベルベットの絵がある。よく見ると下の方に、カーペットのような赤い模様が見える。近づいて、自分の身体が幽体離脱したような“眼(だけ)の人"になると、暗闇に目が慣れたときのように、大きく垂れ込める黒い霧がやや晴れて、滑走路のように、奥に向かって空間が広がる。オペラハウスのような劇場の、不在の舞台のような、深遠でドラマチックな空間にも見える。赤や黒のベルベットは、素材自体も物語性を喚起させる。
■驚くのは、それらの模様は脱色して描かれたということ。色を塗り重ねるのではなく、布の色を抜いて描かれる、つまり消して現れる“引き算"の絵画。前回は雨の情景やコーヒーカップなど、だまし絵風でもあったが、今回は(以前から描いてもいるが)装飾模様が多い。装飾絵画が“足し算"とすると、そのプラスマイナスのバランスは妙技だと思う。
■赤いベルベットの絵画も数点。レンブラントやゴヤの絵皿のようなものに、反射する光が映りこんだような連作もある。光と闇の陰影を描いた画家の、素朴な人々の場面。バナナの月のような赤い絵も詩的だ。これらはパネル張りせず、フラッグ風。
■会場の左側の壁には、板の上に墨を塗ってモーターオイルをにじませて描いた絵画が2点。カーテンや床の反復模様が描かれている。モーターオイルは湿度の違いによって濃さが変わったり、にじみの形も変容するそうだ。絵画保存の通例なら、変色はマイナスと考えるだろうが、彼女の絵は環境によって動き続ける“生きもの"ともいえる。装飾模様は、もともと動植物から発祥しているわけだし。
■考えてみると、ベルベットという布(キャンヴァス)、板絵、オイル(油彩)、墨など、スタンダードを大きく逸脱した方法をとっているわけではない。そして、永遠のテーマともいえる“光と影"。この移ろうものを現代に描くやり方ともいえ、なおかつ描く者は、偶発性も含めアルチザン(職人)的にしぶとく。展示では、絵画か建築かという構成もチラリ。贅沢で気品あり。違いのわかる絵画かな。
染谷亜里可展
2002年2月7日(木)〜3月9日(土)
ケンジタキギャラリー
東京都新宿区西新宿3-18-2-102
(京王新線初台駅より徒歩5分)
12:00〜19:00 日月休
TEL.03-3378-6051
words:白坂ゆり
近づいてみると
左「Soak-Black(curtain)」(1999-2002)、
右「Soak-Black(wall)」(2002)板、墨、モーターオイル
こちらも近づいてみると
右から「Decoder-Plate(R)」「Decoder-Plate(R)」「Decoder-Plate(G)」
Rはレンブラント、Gはゴヤ
「Decoder-Plate(R)」
2002-02-07 at 09:16 午後 in 展覧会レポート | Permalink
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
https://www.typepad.com/services/trackback/6a014e885bb6e5970d015432c74d32970c
Listed below are links to weblogs that reference 染谷亜里可展: