2001/12/07
vol.35 藤井 謙二郎(Kenjiro Fuji)
「あくまでドキュメンタリーにこだわりたい」
今秋、『≒森山大道』というドキュメンタリー映画が公開された。森山大道といえば、アラーキーや篠山紀信と同時代にデビューし、鮮烈な写真でひとつのスタイルを築いた写真家である。とはいえ、本人はそのネームバリューほどメディアに姿を現さず、カリスマ的な存在感すらある。かねてより森山のファンであり、いつかは撮りたいと思い続けてきた藤井謙二郎氏が体当たりで撮影した『≒森山大道』は、写真家の人となりや意外な一面を捉えた純粋なドキュメンタリー作品である。藤井氏にインタビューを試みた。
『≒森山大道』を撮ろうと思ったきっかけは?
■4年くらい前から、いずれ撮らせていただきたいと思っていたんです。以前から森山さんのファンで、かつてエッセイ集を読んだこともあり、本当に「いつか撮りたい」という感じでした。今回映画を作ることになり、被写体はぜひ森山さんにしたいと思いました。
最初は出演を断られたそうですね。
■森山さんは別の仕事で忙しいこともあって一度は断られたんですね。ですが、デジタルカメラで撮ること、アマチュアライズのドキュメンタリーであって構成案にそって進むようなことは全くしないということを電話でお話すると、会うだけは会ってくれるということになりました。喫茶店の後にバーに行き1、2杯飲んだ頃、「とりあえず撮りにきたらどう?」といってくれたんです。その時は、ダメでも仕方ないとう気持ちがありました。
映画として一般公開することは最初から考えていたんですか?
■はい、僕の中では。映画をつくるからには、制作して終わりじゃなく、きちんと興行まで考えなくてはいけないなと思ったんです。それまで自分で劇場へ売り込んだことはなかったんですけど、まずビデオを持ってイメージフォーラムへ行きました。かなりうさんくさかったと思うのですが、担当の人が見てくれて、その場で「じゃ、やりましょうか」という嬉しい返事をいただきました。
森山さんは私生活の露出に抵抗がなかったんでしょうか?
■実際、編集している時はどこまで見せていいのか気になりましたよね。森山さんとのお約束では、編集が終わった段階で見てもらって、カット希望個所があったらカット、ということになっていたんですけど、見せたらカットの要請はなくてOKだったんです。
森山さんって歩きながらかなりスピーディーに撮りますけど、あれって撮られている側は気づいてないんですか?
■あんまり気づいてないみたいですね。撮影の時に一番注意したことは、森山さんの撮影に人が気づいてないわけだから、森山さんを撮っている自分が気づかれちゃいけないと。手にビデオを持っているので隠し撮りというわけではないですけど、できるだけ目立たないようにしましたね。特に歌舞伎町なんかは撮ってると怒鳴られたりしてほんと恐いですから。僕も森山さん同様、撮ってないようにして撮ってましたから部分的に映像がブレたりしましたね(笑)。
「新宿」「コンパクトカメラ」「アートとしてではなく」というふうにセクションに分けて構成していますが、その意図は?
■僕がやりたいのは被写体について映像の断片を提示することでした。それをどう解釈してどう感じるかはそれぞれの鑑賞者に委ねたかったんです。被写体に近づいていく過程みたいなものを入れたかったので、最終的には時間軸に沿った形になりました。あくまで編集感覚で作ったんです。雑誌で森山大道特集をやるのと一緒で誌面でやることを映像でやっただけ。僕の作品というよりは僕が携わった仕事という感じです。チラシにも監督という表記は使わず、「企画/取材/撮影/編集」としています。これってほとんど雑誌ですね。
監督と呼ばれることに抵抗が?
■なんかしっくりこないんですよね…ディレクターだったらまだわかるんですけど。語感の問題なんですけどね(笑)。
5ヶ月間の撮影で自身に変化はありましたか?
■僕がドキュメンタリーを撮ろうと思った根底には、どこかで森山さんの影響を受けてたからだと思うんです。ドキュメンタリーとはどうあるべきかといったことを含めて色々な意味で刺激を受けましたね。撮影でインタビューしている時に森山さんの口から出てくる写真術っていうのは非常に勉強になりました。ほんと良かったです。
今後もドキュメンタリーですか?
■そうですね。アーティストたちの現在の記録映像を撮って行きたいんです。図書館にあるビデオライブラリーみたいに、好きな時に見られるような資料的な映像をつくりたい。写真にしても映像にしても被写体がなければ存在しないものですから、撮影の過程部分を大事にしていきたいですね。
information
『≒森山大道』は好評でロングランが決定し、イメージフォーラム(東京都渋谷区)で12/21までレイトショー(連日21:10〜)上映されている。来年2月2〜8日には名古屋シネマテイクで上映決定。大阪のシネ・ヌーヴォでも2月に上映予定がある。http://www.bbb-inc.co.jp/daido/
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words:斎藤博美
藤井謙二郎(Kenjiro Fuji)
1968年東京生まれ。小学校時代より8ミリカメラを回し始め、映画監督を志す。慶應義塾大学法学部卒業後、放送局に勤務するが、数ヶ月で退社。失業保険生活をエンジョ イした後、早稲田大学大学院芸術専攻(映像)修士課程に進み、在学中より「光とフィ ルムについて学ぶため」広告スチールカメラマン助手となり、今度は罵声を浴びる毎日を過ごす。この頃より興味の対象が劇映画からドキュメンタリーへと移行し、その 後、ドキュメンタリー制作会社にて、助手を経てディレクターとなり、短編記録映像・ 教育映像等の演出及び撮影に従事。現在は、ビー・ビー・ビー株式会社に所属
2001-12-07 at 02:17 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink
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