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2001/11/07

FANTASIA (seoul)

「実現された幻想」 


art144_03_1Lee Mikyung(韓国出身)
「Multi-purpose iron bar (barricade)」,2001


■前回紹介した「樹海より」(芦屋市立美術博物館、~11/25)と同じくUnder Constructionの一環として韓国ソウル市で「ファンタジア」展がはじまった。展覧会名のファンタジアとは音楽用語では「幻想曲」の意味。しかしスペルを見ると後半の4文字「ASIA」は文字通り「ASIA(アジア)」と読むことができる。韓国、中国、日本からそれぞれ1人のキュレーターが企画。タイを含む4ヶ国13人のアーティストが、ソウルで滞在制作をした。

■展覧会場となったのはソウル市内の副都心的な新興地域にある東亜日報(新聞社)の社屋内の印刷工場跡。廃虚的ととらえるのではなく、つくりあげている最中ととらえるとUnder Constructionという総合展覧会名との整合性もある。剥き出しになったコンクリートの壁や床は想像力をかきたてる要素にもなりうる。イルミン美術館の分館として今後恒常的に使用されることになるspace imAのオープニング展としては、願ってもない好企画だろう。

■ Lee Mikyungの作品は入口や二階部分のテラスのまわりにある防護用の柵である。彼女の作品は常にその場に足りないものを補うシステムを挿入してゆくようなものだという。韓国には徴兵制度があるのだか、出品作家のひとりHam Jinはそのお勤めの真っ最中だったため、休暇を3週間もらい制作した。カビの胞子が増殖してゆく途中のようにも見えるデリケートな作品を会場のコンクリートが剥がれたところなど数ヶ所設置している。金魚に白いウエディング・ベールをつけて泳がせるという映像作品もまた彼の出品作だ。

■小沢剛は現地で出会った女性に好きな鍋料理を聞き、その材料の買い物に行くところから作品づくりをはじめた。そろえた材料で「武器(銃)」を形作り、その女性に「武器」を構えてモデルになってもらい撮影。さらに武器は食材にもどり、鍋料理としてパーティの主役となる。それらのプロセスを写真に撮ったものがビニールハウスの内側や外側に張りつけられ、使った鍋なども展示されている。食は日常に欠かせない一つの文化だ。武器にはさまざまな意味合いが重なっているように思われる。異なる言語や文化をもったアジアのアーティストたち、ソウルで彼らをサポートした学生たちが一緒にこの鍋をつつくいて作品に参加する。なんとも素敵な作品だった。

■ サキサトムは「Arakawa」と 「S Passage」の2つの作品を出していた。「Arakawa」は約40年前に荒川の土手や橋のうえなどで撮影された映像におさめられた家族の出来事がプロジェクションされ。そこに居合わせた人々に、そのときの記憶をたどって話してもらったインタビュービデオがモニターに流れている。大きなガラスをその横に配しており、川面の水鏡のように映像がガラスの上にも映っている。記憶はそこに居たそれぞれの中で、いろんなかたちにとらえられ、今も彼らの中に留められていた。

■いずれの作品もさらりと作り上げられているようで、テーマとしてはしっかりとしたものを秘めていた。作品は展示された空間に、前からあたかもずっとあったかのように、すっと染み入っていた。アーティストとキュレーターそれぞれからのプレゼンテーションがあった日、食事の後、ソウル市内のLee Mikyungのアトリエで皆で夜更けまで踊っていた彼らの笑顔が印象に残る。展覧会がオープンするまで、多くの障害を乗り越えながら進めてきた分、彼らの距離は縮まっていったのだろう。ファンタジアは来春には中国・北京に場所を移し展覧会を催す予定だ。

under construction
FANTASIA (ファンタジア)
2001年11月7日(水)~12月9日(日)
space imA (スペース・イマ)
1F, 17 Yeouido-dong , Youngdeungpo-gu , Seoul
(ソウル地下鉄5番線 Yeouido 駅22番出口より徒歩10分)
12:00~19:00 月休
入場無料
TEL.+82-(0)2-781-0616

words:原久子

art144_03_2小沢剛の作品(日本出身)「武器・鍋・宴(Weapon, Pot, Party)」, 2001

art144_03_3サキサトム(日本出身)「Arakawa」, 2001

art144_03_4Kan Xuan(韓国出身)「Looking, Looking, Looking for」, 2001 蜘蛛がカラダのうえを這っている姿が延々と映し出されるビデオ・インスタレーション

art144_03_5Kim Sora(韓国出身)「1,290,000KRW」,2001
アーティストたちに支給され制作費を、韓国ウォンに換算し直した額の数字をタイトルにしている。支給されたすべてを使って購入したものを天井から一直線にぶら下げた。

art144_03_6Yang Zhenzhong(中国出身)
「I Will Die」,2001画面に次々と登場する人々がさまざまな表情で「I will die」と自分の言語で発するビデオ作品

2001-11-07 at 10:35 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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