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2001/10/06
本という美術
「やっぱり本でなきゃだめなの」
■いつだったか、ある版画家がこんなことを言っていた。「版画というのは、もとはといえば印刷の手段として生み出されたしたもの。だから額に飾るよりもこうやってめくれる本の形態が本来の姿なんだ」。以来、彼の言葉がずっと心のどこかに残っていた。
■今年の夏、長野県にある池田満寿夫美術館を訪れた。満寿夫の「豆本」を企画展示しており、マッチ箱ほどの小さな本を拡大カラーコピーして、可能なかぎり「中身」を見せていた。実物の展示はなく原寸サイズを想像しながら鑑賞したが、小さな画面へこんなにも手の込んだ版画を描き、凝った装幀をほどこした小粒の作品に魅了された。希少な作品ゆえ、実物を手にとることは許されないだろうが、せめて一緒に併設されていたらと残念に思ったものだ。
■職業柄、私にとって「本」は身近な存在である。印刷物特有の匂い、ほどよい重量感、ぱらぱらとめくる感触、心動かされる内容、これらの条件がいくつか重なると、あの乱雑な部屋のどこへしまうのかと思いながらもつい買ってしまう。結果、読む間もないうちに次々に本が横積みされていくことになる。図書館で借りれば?といわれるが、自分で所有したいのだから他に手はないのである。
■前置きが長くて恐縮だが、この展覧会は「本への愛着」をしっかりと確認できるものだった。最初の展示室に入った瞬間から、本の魅力が充満している。昔の本はこんなにもしゃれていたんだと気づいたり、こんな本があったのだなあとか。今書店に並んでいる本はそれなりにビジュアルも進化しているけれど、ひと目で装幀に目を奪われる本はごく少ない。
■大正期以降の優れたデザインセンスの装本に圧倒された第1部、詩画集というくくりでオーソドックスなものからアヴァンギャルドな形態まで総括した第2部、本という概念の冒険を試みたオブジェ的作品が集められた第3部。同展は昨年開催したアーティストブック展の日本版という位置付けであり、「本をめぐるアート」というカテゴリーで収集公開を行ってきた同美術館ならではの企画といえよう。多数のバラエティに富んだ「本」の世界が楽しめる。
■第2展示室に池田満寿夫の豆本の数々がショーケースに陳列されていて思わず心が躍った。冒頭の版画家も出品作家のひとりだったことを付け加えておく。
本という美術
2001年10月6日(土)〜12月16日(日)
うらわ美術館
埼玉県さいたま市浦和仲町2-5-1浦和センチュリーシティ3F
(JR「浦和」駅西口 徒歩7分)
10:00〜20:00(入場は19:30まで)
月曜休(祝日の場合はその翌日)
一般630円、高大生420円、小中生210円
TEL.048-827-3215
関連ワークショップ「お気に入りをとじる」
日程:11月17・18日
時間と内容:両日とも10時30分〜「大切なハガキをとじて本を作る」15時〜「文庫本をハードカバーに改装する」
講師:藤井敬子(造本作家)、近藤理恵(造本作家)
定員:20名(先着順)
料金:500円(持参物有り)
申込方法:開催日の10日前までに参加希望の日時、氏名、連絡先(住所、電話番号、ファックス)を明記し往復ハガキかファックスで申し込むFAX:048-834-4327
words:斎藤博美
加納光於(詩・大岡信)「アララットの船あるいは空の審」は中が開けたくなるような不思議なオブジェ
池田満寿夫の豆本がずらり。彼のこだわりは豆本にも克明に出ている
本の形態のまま灰と化した西村陽平の作品「CQ ham radio」
2001-10-06 at 09:22 午後 in 展覧会レポート | Permalink
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