2001/06/22
vol.31 清岡 正彦(Masahiko Kiyooka)
「全景姿勢」
清岡正彦は、想像と現実、心の中と日常の風景の"あいだ"にある中間領域を"景色"として造形的に視覚化している。空間のなかをゆく視線の冒険は、静かに地表を開き、ズレやスキマを滑走路のように飛来し、俯瞰し、着地し、潜水し、浮上し、それ自体を循環させる。そうした景色を、場所や素材を変えて異なるかたちで増やし、それぞれが、人ともの、人同志が出会う「場」となり、大きなもうひとつの地球をつくっていく感じにしたいという。私も、「ノアの箱船」的にいまの場を捨てるのではなく、かの地をめざし見続けることで、日常のなかに静かに地殻変動を起こして現れるその島々に、スライドしながら移動・移住していけたらと思う。
■作品がどうやって立ち上がってきたか
作品のリアリティを追求していくなかで、内面性や自分の想像世界とか、あるいは現実 や社会とか、どちらか一方に向かいがちだと思うんだ。でも、本来は“現実と非現実”と か“あることとないこと”とか、そうした矛盾する双方が一緒に存在し、ひっついている 状態こそリアルなんじゃないかと。それで、四角い枠の中で、さまざまな異質なものが出 会っているような、ニュートラルな「場」を空間のなかに立ち上がらせたいと思ったん だ。それが、人の周辺の景色として、日常にリンクしていければな、と。ただ、そのとき に、一見美術にならないものが美術になりうることも既にあるし、なにかに見立てること すらも“現実”だから、そうではないやり方を考えて。ものとものとの間に働く効力や作 用を大きく見せれば、もの(作品)に求心的に還っていくのではなく、遠心的に広がるだ ろうと思った。
■ひとつ構造がわかればどんどん見える幅も広がると思うんだけど。
たとえば、「栓上地」は、浴槽栓を結節点に、シャワーヘッドの鳥がいる島のような場所へ行く上への視点と、モルタルの流れた跡のある床に広がる下への視点。「転位線」は、柱からまたいだ作品展開を考えている。床に映り込むことで世界が広がるし、傷も、イメージを現実化できたら違って見える。重層的にして、スキマの部分に、既製品のレールとイメージのレールという、相反しているものを重ねて視覚化した景色を存在させたんだ。
■レールはたどるとズレていって、傷の線に沿ってすべりこんだり、景色が下に沈み込みそうな、上に浮遊していきそうな。写真作品も出てきたよね。
「地景線」は、レールと電車のセットを別々の切り口に融合させようとして写 真にした。影で写り込んだ世界と実在の景色、作品の影と実在の風景の影という"ある"と"ない"のはざま。立体造形と写 真とのプロセスの違いをひとつの会場で見せるのも"異質な出会い"だし。どれも現場を徹底的に見て、そこにどういうものを存在させ、視覚を休ませない体験をしてもらえるか、吟味を重ねてる。
■映像の枠内とか、空間でも、ヴァーチャルもしくは非現実的なファンタジー空間なら、 人はすっと入り込めるけど、現実に近接した空間というのは、かえって伝わりづらい。そ こをやるのは大変では?
リアリティって、映像や平面で見えるのとは違うよね。日常では、平面 で見る情報が圧倒的で、むしろ三次元のほうが浮遊してる。それなら僕は、僕らが歩いている空間にイメージを導入していきたいなと。
■そこで今度は、名刺ケースを展示空間と見立てて、その中に“景色”をつくり、その小 さな画廊のオーナーである私が日々持ち歩く展覧会をするわけですが。これまで画廊に固 定されていた“景色”を、現実の景色の中に持っていくわけだよね。
うん。"異質な出会い"を場所を限定してガチンコ(笑)でやってきたけど、移動することと、作家同志ではなく、異なる角度から美術を広める立場の人とコラボレーションすることで展開を広げたいなあ。現代美術の難解の反動として、等身大的な美術がいいとされてるけれど、かかわりの中で深いところを探していきたい。目的の場を"自分"と"あなた"の間ではなく、別 の地点に三角形のように設けて、そこをめざしていく。
■そうだね。美術に限らずなんでも、降りてきてもらうことばかり要求するんじゃなくて、生きるために私達の日常レベルを上げる努力も必要。特権化ではなくて、双方でめざさないと、地盤沈下しちゃう。
つくることで自分の考え方や出会いが広がったり。目的をそれぞれもっていると、個人では動かない山が動いたり。芸術を通 して、人間として豊かなことをしていると思う。日常のなにげない世界にも見える豊かさって美術がいえることだよね。僕はそこに“つくること"でかかわりたいし、「普遍的なものはない」ともいいたくない。だから、僕個人は人として傷つきもするけど、大きなところをめざしてやり続けている芸術とは別 物だし、抱えているものがでかいと、表現も大きくなると信じてる。ただ、現状に満足したい人に伝えるのは困難だけど、僕の作品がいつも周辺にたたずむ感じに存在し、あるとき、より深いものに変わったらうれしい。だからつねに全景を意識してつくっていきたいと思うんだ。
「開封景-出会える異質」
清岡正彦と白坂ゆり(美術ライター)のコラボレーション展 2001年8月1日(水)〜2002年7月31日(火)
ART SPACE LIFE "days"
TEL.090-8590-3643
※青山のGALLERY ART SPACE の考案でフランチャイズ化。名刺ケースに作品をつくり、オーナーが日々持ち歩く展覧会。オーナーに出会うことで展示が見られます。
以後、2002年6月Galerie SOL個展、7月東京画廊「bit展」参加
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words:白坂ゆり
「透映体」1998-99年 コンクリート、木材、ガラス、FRP、エナメル、ジェッソ、ポリエステルパテ(モリスギャラリー)
「波動帯」1999年 タイル、セメント、木材、玩具、FRP、ポリエステルパテ、エナメル、ジェッソ(淡路町画廊)
「境台」1999年 木工用オイル、木工用ボンド、蛇口部分、排水溝、ポリエステルパテ、エナメル、ジェッソ(淡路町画廊)
「栓上地I」2000年 タイル、セメント、木材、鳥の木彫、シャワーヘッド、浴槽栓、ウレタン塗料、石、ジェッソ、FRP、ポリエステルパテ
手前「栓上地I」、奧「栓上地II」(Galerie SOL)
「転位線」2000-2001年 木材、セメント、模型レール、石、ウレタン塗料、エナメル、ジェッソ、ポリエステルパテ、床タイル、FRP
「転位線」(部分)(神奈川県民ホール)
「地景線」2001年 写真(カラープリント)に額装(神奈川県民ホール)
清岡正彦(Masahiko Kiyooka)
1973年 高知県生まれ
1997年 多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
第2回アート公募'98審査員大賞受賞
1998年 第3回アート公募'99奨励賞、ギャラリー企画賞受賞
1999年 多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻修了
個展
1996年 ギャラリーKARINスペースII(東京)
1998年 第2回アート公募'98審査員賞展(keyギャラリー 東京)
1999年 第3回アート公募'99モリスギャラリー企画賞展(モリスギャラリー 東京)
セゾンアートプログラム アートイング東京 1999:21×21(淡路町画廊 東京)
2000年 建築画(Galerie SOL 東京)
グループ展
2000年 Each Artist,Each Moment 2000(ギャラリーGAN 東京)
TRANSIT 経由・滞域(ガレリア・ラセン 東京)
2001年 かながわアートアニュアル2001(神奈川県民ホール 横浜) 他多数
2001-06-22 at 01:08 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink
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