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2001/04/28

小嶋悠司の創造展  

「こんな時代を見据えねば」 


e131_02_11F展示室。左は「穢土」1987年


■いい展覧会の定義って何だろう? ふと、そんなことを考えるきっかけとなったのが同展である。

■小嶋悠司さんの作品は何度か目にしたことがあり部分的に知っていた。褐色系の色彩をした見るからに重厚そうな絵画。描かれている人物や動物の表情はほとんど読みとれず、画面全体がとても暗いのだ。粘土でエスキース(下絵)を作りそれをもとに絵画を描くという、ユニークな手法で制作している作家である。

■会場に入ったら、案の定、独特の重い空気が充満していた。壁面には穢土、凝視、群像、地といった作家が一貫して継続しているタイトルの絵画が並んでいる。モチーフは、頭部のない人間の群像、流木のような人体、しっかりと見開かれたふたつの目…これでもかというくらい、見る者へ一種の加重をかけてくる。この圧迫感に耐えうるには相当の精神力が必要だろう。事実、数日前から落ち込んでいた私にはかなりキツかった。受け手がこんなに打撃を受けているのに、本人は描いていて辛くならないのだろうか。なぜ何十年もこれほど重い作品を手掛けてこられたのか。そんな疑問すら頭をよぎった。

■気になって1週間後、再び美術館を訪れた。担当学芸員・野地氏によるギャラリートークを聞くためだ。「小嶋さんは人間も自然の一部と考えている」「自然を破壊する人間に対し、理性を眠らせるなというメッセージをこめている」等々、小嶋芸術の核心に触れながらの丁寧な解説はとても分かりやすかった。社会批判をストレートに表現した作品であることがよく理解できたし、テーマの重さとビジュアルの重さが自分の中で合致し素直に咀嚼できた。胃腸に異物が残っているような感触はまだあったが、褐色系の画面が美しく感じられ、モチーフの輪郭を縁取る朱色が希望の色に見えてきた。常に時代を凝視し格闘してきた作家の仕事を知ることはとても意味があることと思う。

■最初に戻るが、同展がいい展覧会だなって思えたのは、鑑賞者の気持ちを波立たせ、何かに気づかせる要素があるから。重くのしかかる空気に浸かりながら、いろいろと考えをめぐらすための椅子も用意されている。週末に開催されるギャラリートークに参加するのもお勧めだ。モヤモヤがクリアになる可能性も高い。

■同美術館は何度も訪れたことがあり、私にとっては見慣れた会場である。今回、展示室の仕切壁をアーチ状にして上部に作品を展示したり、教会をイメージさせる赤い壁面の小部屋をつくったりと、とても新鮮な展示空間になっていることも付け加えておく。

小嶋悠司の創造展
2001年4月28日(土)〜6月10日(日)
練馬区立美術館
東京都練馬区貫井1-36-16
(西武池袋線(有楽町線直通)「中村橋」駅、徒歩3分)
9:00〜17:00(火曜休、金曜は〜18:00)
一般500円、高大生・65歳以上300円、小中生100円
TEL.03-3577-1821

毎週土・日曜14:00〜ギャラリー・トーク有り
6月8日(金)17:00〜18:00 コンサート(つのだたかしのリュート演奏)

※ギャラリー戸村(東京・京橋 TEL:03-3275-4043)では5月14日〜6月23日まで小嶋悠司2001年新作展を開催

 
words:斎藤博美


e131_02_2「凝視」1975年

e131_02_3「穢土」1994年

e131_02_42F展示室。仕切壁の上部にも作品が展示されている

e131_02_5人物画が並ぶ赤い展示室は教会をイメージさせる

e131_02_6エントランス壁面にも7メートルの未完大作「穢土—源生」が展示されている

2001-04-28 at 12:55 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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