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2001/04/09

七戸優展

「さまよえる少年 」 


■七戸さんの絵画には魅力的な世界がある。それもちょっと怪しげな世界が。登場する少年もウサギも鳥も、無口で静かにたたずんでいるが、この世とは次元を隔てた住人のようだ。どこか理知的で寂しげな表情。ちょっとした仕草や、首のかしげ方にしてもスキがなく、にくいほど様になっている。

■今回「't'を持たない少年」という展覧会タイトルが付いているが、七戸さんに聞いたところ‘t'とは‘thickness'のことで「厚み」を意味するとのこと。つまり、少年は記憶の断面にだけ存在するということになる。建築関係に関わってきた七戸さんにとってはごく基本的用語らしいが、私は'time'ではないかと密かに思っていた。

■私は感覚で世界を見てしまう。作品にしてもそうだ。理屈なくすっと入り込めたりそうでなかったりいろいろだが、七戸さんの絵画は出会った時から気になっていた。謎をちらつかす心にくい仕掛けを感じるからだ。情景すべてをノスタルジーで包み込み、一見こぢんまりとした空間を装いながら、ポーカーフェイスの少年が奥へ奥へと誘い込む。足を踏み入れたらきっとハマってしまうだろう。

■同展のパンフレットに掲載された天沼春樹さん(作家・ドイツ文学者)の文章に「迷宮」という言葉が出てくるが、まさにそんな世界だ。迷いたくても迷えないレールの上を進むしかない現代人にとって、迷宮は憧れの世界であり、現実逃避願望をくすぐるにちがいない。出口が見つからない不安と快楽を同時に味わう至福のひとときがある。

■とりあえず自分のマニアックさも認めつつ、この異次元世界をおすすめする。時間も空間も超越したノスタルジックなファンタジーに、しばし浸かってみてはいかがだろうか。

七戸優展
2001年4月9日(月)〜4月21日(土)
青木画廊
東京都中央区銀座3-5-16 島田ビル2F
(営団地下鉄線「銀座」より徒歩3分)
10:30〜18:30 日曜は12:00〜
入場無料
TEL 03-3535-6858

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「七色カクテル」27.3×22cm

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「月を喰らう」30×30cm

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「グラモフォン」36.4×72.8cm

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「父の肖像」27.3×22cm

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左手前の作品は「上手ヨリ出デ下手ヘト去ル」

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初日の会場風景(一番右側が七戸優さん)


2001-04-09 at 12:19 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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