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2001/02/09
vol.28 高安 利明(Toshiaki Takayasu)
「空白を共有する」
高安利明は、同じ題材でさまざまな作品をつくる。絵画や音や映像のメディアを行き来し、同じ題材の絵画でも彼の眼がカメラやパソコンの画像になってフレーミングや色を変えたり、見たものを何度もなぞる。今回は6年ぶりの個展。彼の脳カメラを分けて見せてもらってるような絵画やビデオでは、空の向こうが見たいとも思うが、向こうではなくすでにそこにある気もする。私たちは空白が不安でつい満たそうとするが、彼は空白をこう考えていた。
絵は子供の頃から?
■いや、小学生の頃は友達と外で遊んでた。爆竹や砂遊びは創造的だった(笑)。図画工作では器用だったけど、欲求から一人で絵を描くことはないし、中学の時はTVで昼のオカルト映画やMTVをよく見てた。高校の時は、美大受験の技術に集中したね。自分が何を表現するか意識し出したのは大学3年で「の、ようなもの」しかつくれなくて。大学院に入るとき、日常生活に支障を来すくらい精神を病んで、コントロールできないリアルな自分を見たんだ。自分が放出したものは人の評価も気にならず、リハビリになっていた。
不安だけど、空気はクリアな感じ?
■うん。いまでも背負っているけど、冷静にものを見て、自分が出したものを、見る人と共有できるようにどう表現として見せるか考える余裕もできた。絵なのか、音なのか、映像がいいのか。自分がなにを見てどう留めるか。留めることで安定する。感情や物語よりは、淡々とそこにあるものを描く。メッセージは込めず、匂いが出ればいいかと。本人にしかわからなくても、共感することはできるような。
ゆらぎのような感覚を起こさせる気がするけど。
■冷めた感じにするなら、写真だけ機械的に焼く手段もあるけど、写真を絵にしたり、それをビデオに撮って、何度も編集したり。その過程での変化になにかを感じとるのかも。映像のピントのブレではなく、自分であえてぼやかしたり色を変えているから。何度も段階を経るのはムダといえばムダだけど、すべて理由があって合理的にやるんじゃなくて、余分なことが大事。
その過程で、自分は空っぽになる感じ?
■うん。鳥が飛ぶ姿とか、自分が電車の速いスピードで移動することとか、食べて砕いたものが胃袋に入ることとか、なんでもないことでも、意識し出すとすべてが不思議で異常。それをどう認識したり処理して、バランスを取って生きているのか。でも、わからなくてもいい。何者かにならなくてもいいし、そのまま在るだけでスゴイこと。主義主張のない、こんな絵をなぜ描くのかって、疑問を感じてくれてもいい。僕の絵を通 して、ぽっかりと何にも縛られない時間をもてれば。
なにも考えない時間と、記憶に寄り処を求めることの結びつきは?
■なにが現実かとも思うし、逃避もあるけど。自分の良いように想像したり、現実にあったことも夢のように曖昧だったり。浸るのではなく、自分の片隅に残ったそれがなにか、見つめ返すのがおもしろい。
自分の記憶もメディアにねつ造されているとは疑わない?
■ウソでもホントでも、そこを回遊する楽しさもある。それも自分だし。本当のことってないかもしれないし。たとえ画像を描いていても自分のフィルター度が高いってことで、逆にねつ造度を楽しんでもらうような。
白黒絵画が出てきたのは?
■色という感情をゼロにしたい、捉え方のひとつ。ものとものとの際とか。見たものを原点に戻して、根本的な部分に触れたい。
ビデオはどんな表現をしたいとき?
■200〜300mくらい離れて撮る「望遠(ズーム)映画シリーズ」とか公園で回しっぱなしとか。俯瞰でのぞき見ているときは自分に触れられたくない。ビデオカメラをのぞくと、急に別 世界になり、想像の風景と近くなる。万華鏡を覗いているような。夢も動画で、ほんとに汗かいちゃったりするし、なにか近いのかも。夢って思い出すほど、覗いてる感じするよね。
音はどんな表現をしたいとき?
■人には虚無的だといわれる。ジャンルもテクノでも現代音楽でもなく、主張もない。音は自分のコアに入って戯れの中から出るもの。ライブでは、より増幅させるために映像も流してる。ランダムに撮った映像と音に、無音を挟むことによって、次の音が鮮明に聴こえるように、リズムを際だたせるライブをやろうかと。森の中を歩く足音を録って、寝る前に聴くとトランスするよ。
すべてコミュニケーションしようとする面と、遮断する面 があるような。
■やってることは中心(芯)に向かってるけど、強制しないから「で、なに?」と思われるかも。でもその空白によってバランスが保てるし、空白を見つめることを共有できたら。美術家というより、ただ"見つめる人"になりたいのかなあ。
*高安利明展
2001年2月3日(土)〜3月25日(日)
FADsアートスペース&ショップ
東京都国立市東2-9-13
(JR国立駅南口より旭通り約7分)
12:00〜20:00 土日のみオープン
TEL.042-576-4709
ビデオ用につくったCD(CDR)も販売。
*クリニック展(大巻伸嗣、木村崇人、高安利明、増山士郎)
2月18日(日)・25日(日)
(株)エイチ・アイ・エス会議室
(渋谷駅マークシティウェスト12F)
12:00〜16:00
TEL.03-3704-1660
* LOW-TEC(開発好明×高安利明)
ノイズミュージック・ライブ
3月31日(土)17:00〜19:00
現代美術製作所
東京都墨田区墨田1-15-3
(東武伊勢崎線東向島駅より徒歩3分)
500円
TEL.03-5630-3216
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words:白坂ゆり
「空」1999年
「森」1999年
「花」1999年
(左)「空」1999年 (右)「人」2000年
1998〜2000年ビデオ映像リミックス版より
1998〜2000年ビデオ映像リミックス版より
1998〜2000年ビデオ映像リミックス版より
1998〜2000年ビデオ映像リミックス版より
高安利明
(Toshiaki Takayasu)
1968年 群馬県生まれ
1993年 多摩美術大学大学院美術研究科 修了
個展
1994年 ギャラリーQ(東京)
1995年 ギャラリーQ(東京)
グループ展
1993年 New Works'93(世田谷美術館区民ギャラリー/東京)
1995年 Uncut I.C.A(ロンドン)
1996年 On Camp/Off Base(東京ビッグサイト/東京)
1997年 High Relax(青山骨董通り/東京)
1998年 「つくる」×「であう」(登満寿館/東京)
Sound Perfomance(東京大学駒場寮内/東京)
1999年 Fancy dance- Contemporary Japanese Art After 1999(ソウル)
New Works'99(世田谷美術館区民ギャラリー/東京)
「わたしの日常にアートが挑む」(登満寿館/東京)
2000年 絶対アンテナVOl.1(川口現代美術館スタジオ/埼玉・OFF SITE/東京)
(サウンドと映像のパフォーマンス・ライブ)
2001-02-09 at 01:07 午後 in アーティスト・ヴォイス | Permalink
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