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2001/01/16

IKIRO........to Vincent / TAKAHIRO SUZUKI

「静かに轟け万物へのエール」


art124_03_1鏡の前にとりつけられた缶を開けると蝋が流し込まれている。下には「生きろ」と書いた紙が入っている。


ホワイトキューブの中には、ビデオの映像の画面の他に色らしきものはほとんどない。白いナイロンのカーテン、小麦粉を敷き詰めた布団ともベッドとも棺ともとれるような長四角の箱、白いタイル張りの水槽。鏡の前の缶のなかには、蝋の下に生きろと書いた紙がある。

今回の個展は、タイトル通り鈴木が尊敬するゴッホへのオマージュでもある。鈴木は浪人生だった86年頃、ゴッホに宛てて日記を書いていた。そこに、彼は「生きろ」と書いた。それは自分を励ますための言葉だったという。水槽のなかのモニターには、昨年10月にゴッホが人生の最後に訪れたフランスのオーヴェール=シュル=オワーズで行なったパフォーマンスの映像が流れている。見渡す限り続く平原で、「生きろ」と書いた紙を天に向かってまく姿が記録されている。

はじめて鈴木貴博の存在を知ったのは、『美術手帖』97年7月号、特集「これがぼくらの生きる道」のグラビアページだった。自ら半紙に「生きろ」という文字を書き続け、パフォーマンスや書いた紙を用いてインスタレーションを行なっていた。NYの公園でやっていたり、幼い頃に通った絵画教室の亡くなった恩師の家を「生きろ」と書いた文字で覆い尽くし、何かが抜けたような表情で大屋根のうえに座っている彼自身が写った図版がとても印象的だった。

京都・西陣の織物工場跡でのパフォーマンスとインスタレーションをみたことがあった。そんなこんなで、何にでも体当たりでぶつかってゆくちょっと泥臭いイメージが私のなかで出来上がっていた。ところが今回は全然違ったのである。場所によって見せ方は変えていて、こんなふうに画廊でやるときは、野外のパフォーマンスとは、違ったコミュニケーションの取り方があると思って、やっているというのが本人の弁だ。

これまでの作品ファイルを見せてもらった。「生きろ」という言葉にはすべての人や物へのエールが含まれていたように、ページをくりながら思った。「『私は神の言葉をまく人になりたい』と生前の手紙でゴッホが書き残しています。とてもわかる気がするんですよ」と、前に取材の時に彼が言っていたのをまた思い出した。

IKIRO........to Vincent / TAKAHIRO SUZUKI
鈴木貴博展
2001年1月16日(火)-1月31日(水)
ギャラリー16
京都市左京区岡崎円勝寺町1-10 スクエア円勝寺2階
(京都国立近代美術館南側疎水沿いを西へ5分)
12:00-19:00 (最終日-17:00)
月曜日休廊 無料
TEL.075-751-9238


art124_03_2缶を見ようとすると自分自身が映る。そして、背後の水槽の中のビデオを見ている老夫婦の姿もいっしょに映っていた。

art124_03_3ゴッホが亡くなったオーヴェール=シュル=オワーズでまいた「生きろ」と書いた紙

art124_03_4カーテンの裾の折り返しには4つの植物の種が入っている

art124_03_5わかりにくいいが、オーヴェール=シュル=オワーズで紙をまいている姿が映っている

art124_03_6ビデオを見る人

art124_03_7コンピュータでいくつかのイメージを合成したもの。ゴッホに捧げるイメージ・ヴィジュアルとでもいうのだろうか


words:原久子

2001-01-16 at 08:55 午後 in 展覧会レポート | Permalink

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